ボールペン落としましたよ
「すんません。あっ……」
遥の声で振り返った円が、ボールペンを受け取ろうと手を出したまま固まった。
「ええ?なんですかこれ……いやマジでなんですかこれ……」
遥の持つボールペンの透明な軸には、白いビキニ姿ではしゃぐ和の写真が入っていた。 それに気が付いた遥は、腹を抱えて爆笑した。
「あ~、去年の夏海行きましたね!いや、ほうやなくて!これ、和は知っとるんですか?」
それは、遥と円と和の3人で海に遊びに行ったときの写真だった。
「もちろん知っとります」
円はバツが悪そうに苦笑いして、頭を掻いた。
「ええな~これ、仕事がはかどるでしょ?僕も欲しいなぁ」
目を細めて和の写真を眺める遥の手を、円がつかんだ。
「伊勢原さん」
「はい」
黒目がちな円の目は、瞳孔が開いていつもよりも黒く見えた。 獲物を視界にとらえた肉食獣のようだと、遥は思った。 「あきません」
円はそっと遥の手からボールペンを抜き取り、低い声でゆっくりとささやくように言った。
「うん、あの、言うてみただけです」
遥は円が大切そうにボールペンを胸ポケットにしまって立ち去るのをじっと見ていた。
背中にはじっとりと冷や汗をかいていた。
「ほんなに好きなら付き合うたらええのになぁ~!」
円の姿が見えなくなったのを注意深く確認して、遥は小声でそう言った。
円は遥にとって良き友人であったが、いまだに謎が多すぎた。