ボールペン落としたよぉ
呼び止められて和が振り返ると、ボールペンを手にした円が立っていた。
「あーすんません……あっ!」
手を伸ばした姿勢で、和が固まった。
ボールペンを眺めていた円も固まっていた。
「うひゃははは!」
何かを理解した円が突然声を上げて笑った。本気でウケたときの笑い方だった。
「ちょー待って?神田橋さんはなんでいつもわざわざこういうもんを僕の前に落とすん?」
円が持っているボールペンの軸には、円の写真が入っていた。
円の許可を得て撮られた写真だが、グッズに加工されるとは円も思っていなかった。
「わかりません!!」
直立不動の姿勢で、和が答えた。
「これどうやって作ったん?」
「ほういうキットが100均に売っとうッス」
バカ正直に和が答えると、円は納得した様子だった。
「ほな僕でも作れるんや?」
「ほらもちろん作れますけど……え、作るんスか?」
和は冷や汗をかいていた。
「ほなって僕だけボールペンにされるんはずるいやん」
ひらひらと自分のボールペンを振りながら円が言った。
確かにそれはそうなので、和は何も言い返すことができなかった。
円は和のシャツの胸ポケットにボールペンを挿すと、悠然と歩き去った。
和はなんとも言えない複雑な気持ちで、しばらくの間頭を抱えていた。