円のために栄養管理せななぁ?
「遥ぁ」
僕はキッチンに立つ遥に、後ろから抱きついた。
「まだぁ?」
遥はカレーを作ってくれよった。鍋に具材を入れて、あとはもうルーを溶かして煮込むだけやった。 「もうちょっとやけん辛抱しとき」
振り返って、遥は子供に言い聞かせるように言うた。
「嫌や、もう辛抱できん」
僕は遥の首筋に唇をつけて言うた。
遥はしゃあないなぁと言うて、僕を抱きしめてキスしてくれた。 ほう言うて、遥はうさぎの形に切ったりんごの乗った皿を僕に手渡してくれた。
「遥のカレー、おいしすぎるけん食べすぎた」
「僕もや」
ベッドで僕達は笑い合った。
「遥と結婚したら、ご飯がおいしすぎて太ってまうなぁ?」 僕が言うと、遥は少し困ったように笑った。
結婚、なんて。ちょっと調子乗りすぎた。遥が考えたくもないこと言うて困らせた。
「ご、ごめんよ……。冗談やけん」
とっさに目を伏せて謝ると、遥は僕の頭をなでて瞼に優しくキスしてくれた。
僕はつらくて、涙をこらえることができへんかった。
「ほな、円のために栄養管理せななぁ?」
ほう言うて、遥は僕の頬をなでてくれた。
僕は泣きながらうん、とうなずいた。
「円はどっちがええん」
遥の言葉の意味がわからんで、僕は返事ができんかった。
「円は、僕のお婿さんになりたいん?お嫁さんがええの?」
遥は笑顔で、ほなけど真剣な顔で言うた。
「僕は、お婿さんがええ。遥と一緒に真っ白なタキシード着るんや」 涙が止まらへんかった。
神様の前で遥と永遠の愛を誓えたら、どんなに幸せやろ。 「円は白いタキシードが似合うやろな、色白できれいなし、男前なけん」
「なんで?」
僕の言葉に、遥は笑顔のまま「ん?」と首を傾げた。
「なんで、できへんくせに夢見せるようなこと言うん?」
僕が責めるように言うと、遥はつらそうに唇を噛んだ。
「ごめんよ」
かすれた声でほう言うた遥の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「遥のアホ……!」
遥のパジャマの胸元をつかんで、僕は泣いた。
あるんは僕の、アホみたいな夢だけよ。