僕の手紙読んでくれたん?
「伊勢原さん」
僕が給湯室で水を飲んどると、背後からエビちゃんの声がした。 思わず水を吹き出しそうになった。
昨日もらった手紙の内容が、僕の頭に鮮明によみがえった。
「え、エビちゃん……お疲れさん」
振り返って、平静を装って僕は言うた。全然装えとらんかったと思う。
僕と二人きりでいるとき、エビちゃんはいつも甘えた声を出す。 事務所で仕事しとるときと、全然声が違う。
「うん、ありがとうな」
僕が上ずった声で言うと、エビちゃんは両手を胸の前で握りしめた。
「うん!」
嬉しそうにそれだけ言うと、エビちゃんはどこかへ行ってしもうた。
え?ほんだけ?
もしかして、あれはラブレターとちゃうかった、とか? 確かに大好きですとは書いてあったけど、付き合うてくださいとは書いてなかったな。
そばにいたいですとは書いてあったけど、恋人になりたいですとは書いてなかったわ。
……なんか、めっちゃ喉が渇いたわ。おっちゃん心配して損したわ。
僕は二杯目の水を飲み干して、事務所へ向かった。