伊勢原さんは、お日様みたいなあったかい感じやけん
ハンドメイド体験会の会場で席に着いた僕は、あたりを見渡して恥ずかしいなった。 やっぱり若い女の子ばっかりやん。先生やって若い女の子やもん。
「よーし、がんばろ!」
僕の向かいに座った東雲さんが、無駄にええ声で気合を入れるもんやけん、僕はますます恥ずかしいなった。
「よろしゅうたのんます!」
東雲さんが挨拶すると、先生は笑顔で答えてくれよった。
周りの子もなんやら東雲さんをチラチラ見よる。ほらまあ目立つし、何より徳島ではなかなかお目にかかれんレベルの男前やけんなぁ。一方で僕なんかただの場違いなおっさんやけん、いたたまれんよ。 「おっさんは何を一人ではしゃいどんじゃ、恥ずいけん静かにしてくれ」
和が言うと、東雲さんはニヤニヤ笑うた。
僕の隣でほれを見よったエビちゃんが、声を押し殺して笑うた。僕もなんか笑うてしもたよ。和と東雲さんのやり取りは、見よって飽きんわ。
東雲さんは上機嫌でピンクのビーズをかき集めとった。
「乙女か」
なんともいえん顔で和が言うた。
「神田橋さんのために作ろうと思うてな」
東雲さんはほう言うて、隣に座っとう和に優しい笑顔を向けた。
「ほなけん、神田橋さんは僕のために作ってくれたら嬉しいなぁ」
東雲さんのほの笑顔、和が一番好きな顔なんよなぁ。
和は顔を赤あにして、小さく何度かうなずくのが精一杯やった。まったくかわいいやっちゃ。
「ほなどうしよ、僕はエビちゃんのを作ろかな」
和と東雲さんがお互いのストラップを作るんやったら、僕らもなんかほんな感じになるでな?ほのほうが面白うないか?
「えっ、あっ、じゃあ僕は伊勢原さんのを作ります」
エビちゃんはちょっと慌てたようにほう言うて、ビーズを集め始めた。
「僕ってほういう感じ?」
エビちゃんの手元に集まったオレンジや黄色のビーズを眺めて僕が言うと、エビちゃんはうなずいた。
「伊勢原さんは、お日様みたいなあったかい感じやけん」
エビちゃんは僕の目を見つめて言うた。なんかくすぐったい感じがした。
「ほうかー、僕が思うエビちゃんはこういう感じやなぁ」
僕はエビちゃんに青系のビーズを見せた。
「エビちゃんは純粋できれいなけんなぁ、イメージは青色」
初めて会うたときから、エビちゃんは青色が似合うなと思うとった。藍色と空色の制服もよう似合うとったけん。 「ほうなんや、僕青色好きなけん嬉しいなぁ」
僕の言葉に、エビちゃんはほう返して恥ずかしそうに笑うた。
「プロか?」
和は東雲さんからストラップを受け取って、感嘆した。
東雲さんが作ったビーズのストラップは、僕から見てもめっちゃかわいかった。おっさんが作ったとは思えんよなぁ。
「フリマアプリで売れるやつやん」
「売らんといてね」
「誰が売るか!家宝にするわ!」
東雲さんを見上げて必死に声を上げる和を見て、僕らは声を出して笑うた。
もちろん僕とエビちゃんもストラップを交換した。
エビちゃんは僕が作ったお察しクオリティのストラップを大切そうに指でなでながら、眺めとった。
「ほんな大げさな」
僕が言うと、エビちゃんは視線を僕に移して顔をほころばせた。
「伊勢原さんが一生懸命作ってくれたけん、僕嬉しくて」
「うん、まあ、結構がんばったよ」
僕はなんか恥ずかしいなってしもうて、照れ隠しにエビちゃんの頭をワシワシとなでた。 エビちゃんがくれたオレンジ色のストラップは、ホンマにようできとった。こっちこそ、宝物にせなアカンやん。
おっさんがハンドメイド体験会なんて、と思とったけど、みんな楽しそうやったし、僕も楽しかったし、来てよかったな。