なんでもやってみなわかりませんよ
ちょうど僕がエビちゃんに伝票を渡しとうとき、和が事務所にもんてきた。
「ただいま帰りました!」
バカでかい声で和が言うと、入り口近くにおった何人かが「お疲れ様」と言うた。
「エビおまえ、ほんな小さい声では話にならんぞ」
偉そうに言う和の頭を、僕は後ろから鷲づかみにした。
「和の声がでかすぎるんよ、エビちゃんは普通や。ほんなバカでかい声で挨拶されたらお客さんがびっくりするわ」
僕らみたいなドライバーならまだしも、エビちゃんは事務員やけんな、ほんな大きい声出す必要ないけん。和の言うことや真に受けたらアカンけんね。
「ほなけど俺はいつも元気でええねって言われますよ」
僕の言葉に和は口を尖らせた。
「電話でほんな声出されたら音が割れるって」
僕が言うと、エビちゃんが隣で笑うた。
「覚えとけよエビ」
和ににらみつけられて、エビちゃんは不満げな声を漏らした。
和は何かというとエビちゃんにつっかかっていくけんなぁ。ほなけどほれはエビちゃんと仲ようにしたいってことやけん、堪忍したってや。
「ほんなことよりね、今度の休みにハンドメイドの体験会があるんスけど、みんなで行きません?」 和の提案はいつも唐突や。今回はなんて?ハンドメイド?悪いけど僕はパスやな。
そもそもなんで僕がハンドメイドの体験会に行くと思うたんや、おっさんやぞ。
「何作るん?」
ほんな僕を尻目に、エビちゃんは興味ありそうな顔でほう言うた。
ほんな風に話に乗ってあげたら和に付き合わないかんようになるって。
「僕作りたいなぁ」
和は嬉しそうに笑うた。なんや、意気投合しとうやん。まあエビちゃんはお菓子作ったりするし、かいらしいもんが好きそうやもんなぁ。
「ほなまあ若い二人で……」
「僕も行く!!」
僕が言いかけると、エビちゃんの隣で黙ってキーボードを叩いとった東雲さんが声を上げた。びっくりするわぁ。
「伊勢原さんも行くでしょ?」
東雲さんが僕をじっと見つめて言うたもんやけん、僕は思わず苦笑いしてもうた。
「僕はちょっと……」
「僕が行くのに行けへんのですか!?」
東雲さんは信じれんといった表情でほう言うた。
「ほなってハンドメイドって、おっさんが行くイベントとちゃうでしょ?ターゲットは女の子とちゃうんかなぁ」 「おっさんがビーズのストラップ作ってもええでしょ!?」
「いやまあええですけど……」
何を必死になっとんよ、東雲さんは。僕は女の子に混ざってストラップ作るなんて恥ずかしくてできんけんね?
「伊勢原さんも行きましょうよ、なんでもやってみなわかりませんよ」
僕を見上げてほう言うたんは、エビちゃんや。ほんな懇願するような目で見られたら、断れんわ。
「うぅ、ほなちょっと行ってみようかな……」
なんか知らんけど、僕はエビちゃんの言葉に弱い。エビちゃんの頼みや誘いは断れんのよなぁ。
僕も無理しとうとかでなくて、なんかエビちゃんの言うことは聞いてしまうんよ。不思議な子よなぁ。