今日は特別、エビちゃんとの距離が近い気がするわ
「最近はなんでもタブレットよなあ、おっちゃんこれ苦手やわぁ」
僕がタブレットのメニューに苦戦しとうと、エビちゃんが手を伸ばしてきた。
「普通のメニューもあるけん、選んでくれたら僕が注文するよ」
ほう言うてエビちゃんはタブレットと紙のメニューを交換してくれた。
「さすが今どきの子やなぁ」
「伊勢原さんやってまだタブレットが苦手とかいう歳やないでしょ?」
タブレットを手にしたエビちゃんは呆れたように笑うた。
まあ確かにスマホなんかは普通に使えるけんなぁ、使おうと思たら使えるんやろうけど。
ほなけどなんか、こんな機械で注文が済んでまうんは味気ないっちゅうか、やっぱり注文くらい人に聞いてほしいよなぁと思うんよなぁ。
「エビちゃんは何にするん?」
「僕、チーズが乗っとうのにする!」
エビちゃんはタブレットの画面を指で叩きながら言うた。
来る前から決めとったみたいに、迷いがなかった。
「ほな僕はポテトとデザートが付いとう限定セットにしよかな」 「ほんなに食べれんて!」
慌てて僕が言うと、エビちゃんは楽しそうに笑うた。
ほういえばエビちゃん、最近僕にタメ口なんよな。
事務所とか、和とか東雲さんが一緒におるときは敬語なんやけど、二人きりやとタメ口なんよな。
いや、全然ええよ。僕に心を開いてくれとうってことやと思うし、僕もこっちのほうが気楽や。
エビちゃんはチーズが乗ったハンバーグを嬉しそうに食べよった。
「おいしいなぁ」
「なー。ポテトも食べよ、おいしいよ」
エビちゃん、楽しそうやな。よかった。やっぱりエビちゃんは笑顔が一番や。
泣いとうエビちゃんを見るんは僕も辛いよ。嬉し泣きは、別やけどな。
「エビちゃん、なんか困ったことがあったらなんでも言いよ。人間関係でも、仕事の悩みでも、なんでも聞くけんな」
僕が言うと、エビちゃんは口いっぱいにほおばったハンバーグをもぐもぐしながらうんとうなずいた。
今日はせっかく二人きりなんやし、東雲さんや和に話しづらいことも話してくれたらええなと思うた。
「病気のことも、僕でよかったら聞くけん。力になれるかどうかはわからんけど、話聞くくらいはできるけんな」
口の中のものを飲み込んで、エビちゃんはまたうん、とうなずいた。
話すだけでも楽になることって、あると思うし。ほんでエビちゃんがちょっとでも楽になるんやったら、僕はいつでも協力するわ。
「ありがとう、伊勢原さん」
エビちゃんの目がうるうるしとんを見て、僕はちょっと慌てた。
こんなところでも泣いてしまうんか?
「うぇ?」
突然の告白に、僕は変な声を出してしもうた。
なんか今さらっと、僕のことが好きって言うた?
「伊勢原さんが好きって言うた」
エビちゃんはポテトをつまんだ手を舐めて、うるんだ目でいたずらっぽく笑うた。
あ、わかった。また僕をからかっとんな。おっちゃんこう見えて純情なんぞ、すぐに本気にしてまうんぞ。
「僕もエビちゃんが好きやわ」
僕がほう言うて笑うと、エビちゃんも楽しそうに笑うた。
今日は特別、エビちゃんとの距離が近い気がするわ。