人格なんて人それぞれや
「エビちゃん、カラオケあんまり歌わんのとちゃうん?」 ハンバーグで満腹になった僕らは、エビちゃんのリクエストでカラオケに来とった。 僕は歌うん好きなけんええけど、エビちゃんが歌わんのやったら、なぁ?
「今日は僕も歌うよ」
僕の向かい側に座ったエビちゃんが、胸の前で両手をグーにした。
「ほれは楽しみやなぁ」
やる気満々やん。エビちゃんの歌声、楽しみやなぁ。エビちゃんはきれいな声しとうけん。
「ほな一番は伊勢原さんな、腰が抜けたら連れて帰ってよ?」
エビちゃんがリモコンを手にほんなことを言うもんやけん、僕は笑うてしもうた。
「うん、責任持って僕が連れて帰ったあけん」
ほんで僕が歌い始めると、エビちゃんはうっとりした顔でじっと僕を見つめとった。
ほんなに見られたら恥ずかしいよ。
歌い終わっても、エビちゃんはしばらく余韻に浸っとうみたいやった。
「次僕歌うん恥ずかしなぁ」
エビちゃんはほう言いながら、タッチパネルを指で叩いた。
エビちゃんの選曲は、僕が若い頃流行ったロック寄りのJポップやった。もしかして僕に合わせてくれとんのかな?
ほれにしても、この曲調、おとなしいエビちゃんのイメージと合わんけど……
えっ、めっちゃうまいやん。しっかり発声できとうし、音程もリズムもばっちりやん。
なんか別人みたい、めっちゃカッコええやん。
「うわぁ恥ずかしい」
曲が終わって、エビちゃんは顔を隠してほう言うた。
「びっくりするくらいうまいやん」
僕が言うと、エビちゃんは顔を赤くして照れてしもうた。
「もっとエビちゃんの歌聴きたいなぁ」
「僕も伊勢原さんの歌聴きたい!」
ほれから僕達はしばらく交互に歌を歌うた。
カラオケっていつも酒飲んだ後で行っきょったけど、やっぱり素面で歌うんが気持ちええなぁ。
「伊勢原さん、話聞いてくれる?」
ちょっと休憩、と二人で飲み物を飲んどうときに、エビちゃんがふと真剣な口調で言うた。
「ええよ」
僕がうなずくと、エビちゃんはオレンジジュースの入ったグラスを持って僕の隣に座った。
「あんな、僕な、病気って言うたやん」
「うん」
しばらく沈黙があった。僕はエビちゃんが話し出すんを待った。
エビちゃんはオレンジジュースのグラスを両手で持って、ストローに口をつけて一口飲んだ。
「僕、人格に問題があるらしくて。ほんでときどき、おかしくなってしまうことがあるんよ」
エビちゃんはじっと僕の目を見てほう言うて、またジュースを飲んだ。
ほういう病気、僕は全然わからんけど、しんどいやろなぁ。
「今もおかしいんよ」
「え?」
エビちゃんが両手で僕の手を取った。
僕は動揺しながらエビちゃんの目を見つめ返した。エビちゃんは泣きそうな目をしとった。
「伊勢原さんにやったら甘えてもええと思って、こんな話してしもとう」
ほう言うてエビちゃんがまばたきすると、涙がこぼれ落ちた。
ええのに、ほんなん、全然気にならんよ。
「僕は素人やけんな、こんなときなんて言うんが正解かわからん。ほなけどな、エビちゃん、人格なんて人それぞれや。僕はエビちゃんの人格……っていうてもようわからんけど、エビちゃんのことは好きや。エビちゃんが独りで泣かんで済むんやったら、たくさん甘えてもうてかんまん」
僕はほんだけ言うと、空いた手でエビちゃんの頭をいつもみたいにワシワシとなでた。 「伊勢原さん、ありがとう」
エビちゃんは泣いとった。ほなけど、ちょっとすっきりした顔をしとった。
正直言うと、重たい話聞いてしもたなぁと思った。ほなけど後悔はしてない。聞けて良かったと思う。
僕にできることがあるなら、力になりたいと思う。