二人でも、ええの?
僕が事務所に戻ると、エビちゃんはいつもみたいに笑顔で出迎えてくれた。
「伊勢原さん、ちょっと向こう行きましょ?」
「え?うん」
エビちゃんは僕の手から伝票をもぎ取って東雲さんに渡すと、事務所を出て行ってしもた。
なんやろか、また秘密の話かいな。
エビちゃんは誰もおらんことを確認して、給湯室に入った。
ほれから上着のポケットに手を突っ込んで、きれいなセロハンの袋を取り出した。
「お菓子焼いたけん、もらってくれる?」
透明の袋の中身は、アーモンドを抱いたクマのクッキーやった。 「これエビちゃんが焼いたん?すごいやん。食べるんがもったいないくらいかいらしやん」
僕が言うと、エビちゃんは恥ずかしそうにえへへと笑うた。
「ちゃんと食べてよ?味も結構いけるけん」
エビちゃんは上目遣いに僕を見ながら、ほう言うた。へぇ、自信あるんやな。
僕は料理は得意やけど、お菓子作りはしたことがない。こういうん作るんて、難しいんやろなぁ。
ほんで袋の裏側を見ると、小さなメモがくっついとった。 「これは?」
エビちゃんは顔を赤あにして、両手を胸の前で広げた。
「オッケー、ありがとうな」
クッキーをポケットに入れて給湯室を出ていこうとすると、エビちゃんに上着の裾をぎゅっとつかまれた。
「あっ、あんな、僕土曜日休みなんよ、ほんで伊勢原さんも休みやん?」
「うん」
エビちゃん、変に緊張してどしたんやろ。
「ハンバーグのチェーン店あるやん?僕、一度行ってみたいんやけど、伊勢原さんが嫌でなかったら一緒に行ってくれん?」 「おう、ええよ」
なんや、ほんなことかいな。僕はてっきりまた深刻な悩みを打ち明けられるんかと思うて、身構えてしもたよ。
悩みを相談されるんが嫌とかでは全然ないし、むしろ悩みがあるんやったらどんどん話してほしいけど、やっぱりこっちも真剣に対応せないかんでな?
「二人でも、ええの?」
「ええよ。二人で行ってうまかったらまた東雲さんと和も誘うて行こだ」
僕は何の気なしにほう答えたんやけど、エビちゃんはうつむいて手で顔を隠してしもた。
「どしたんな~?僕なんかアカンこと言うてもた?」
僕の言葉に、エビちゃんは首を横に振った。
「ううん、嬉しくて」
エビちゃんはほう言うて笑うた。
何が泣くほど嬉しかったんやろ、全然わからん。僕にエビちゃんほどの感受性がないけんか?
ほなけど、傷付けたとかでなくてよかった。
エビちゃんはポロポロと涙をこぼしながら笑とった。
ほんな顔では事務所に戻れんだろうに。僕がティッシュを差し出すと、エビちゃんはほれで涙を拭った。
ほういえばエビちゃんと二人で出かけたことないんか、いつも4人やったけんなぁ。
たまには二人で出かけるんも楽しいやろな、土曜日が楽しみやなぁ。