今日ずっと静のこと考えとった
今日も荷物を集配して回りながら、僕はずっと静のことを考えとった。
僕が配達に出かける時間にはまだ静は出勤しとらんし、帰る時間は僕の方が2時間早い。
せめて昼飯くらい一緒に食べれたらええんやけど、僕も外におるけんほういうわけにもいかんし。
今日なんか寂しすぎて、静の写真を見ながら飯食うたわ。
事務所に戻った僕は思わず静と呼びそうになって、声をひっこめた。
「し、東雲さん」
僕は掲げた手を仕方なしに東雲さんの頭の上に降ろして、ポンポンと叩いた。
東雲さんは面白そうな顔をして僕を見よった。この人めちゃくちゃ勘がええけんなぁ。
「エビちゃん借りてもええですか」
僕が言うと、東雲さんはちらっと静に視線を移して、すぐまた僕のほうを見た。
「ちゃんと返してくださいよ」
ほう言うて笑う東雲さんに小さく頭を下げて、僕は静を連れて事務所を出た。
「さっき、僕のこと静って呼びそうになったやろ」
2階の会議室の扉を閉めると、静はおかしそうに笑いながらほう言うた。ようわかっとう。
「ほんでどしたん?」
苦笑する僕を、静は上目遣いで見つめよった。
「今日ずっと静のこと考えとった」
静を抱きしめて僕は言うた。
会社でこんなことするんはアカンってわかっとうけど、我慢できんかった。
ふわふわの髪をなでて、匂いをかいだ。なんでこんなにええ匂いがするんやろ。 僕は静の上着を脱がせて、自分の上着とまとめて椅子の背にかけた。
ほれからもう一度、静を優しく抱きしめた。
静は僕の背に手を回して、笑顔で僕を見上げとった。
誰かに見られたら大変なことになる。でも、ほんな緊張感がますます僕を興奮させた。
「遅うなったら東雲さんが心配するけん」
静はほう言うて僕を制した。ほうしてくれんかったら、僕はもう自制ができんところやったよ。
「今日は寝る前にいっぱい電話しよ?」
上着の袖に手を通しながら静が言うた。
ほれからすぐ出ていくんかと思うたら、前かがみになって恥ずかしそうに笑うた。
静の言葉を聞いて、僕は思わず声を出して笑うてしもた。
静に話したいこと、いっぱいあるよ。静の話も、いっぱい聞きたいよ。
もっとずっと静と一緒に過ごしたい。