サメです
海が近うて、波の音が聞こえる。
僕が見よるんに気づいたんか、こっちを見て嬉しそうに笑う静は、いつもよりずっと幼く見えた。
僕は静の髪に触れた。ふわふわしとった。僕はこの柔らかい髪が好きや。 静はサメのぬいぐるみを持ち上げて、鼻にかかった声を出した。
僕はサメのぬいぐるみごと静を抱きしめた。
「これは静?それともサメ?」
「静じゃよ」
静が僕の背中に腕を回して答えた。
僕は静の髪をなでながら言うた。
「遅うなったけど、おめでとう。静、生まれてきてくれてありがとう」
静は僕の腕の中で小さく震えながら、泣いとった。
静はホンマにすぐ泣くな、僕はほんな静が大好きや。
僕が言うと、静は涙をいっぱい溜めた目で僕を見上げた。
静が瞬きすると、涙が頬を伝って流れ落ちた。
「ええよ。おいしい店探そ?」
僕は指で静の涙をぬぐった。
静も同じように僕の頬に触れた。
そのとき初めて、僕は自分も泣いとることに気がついた。
「静、来年も、その次も、ずっとずっと、二人で誕生日祝お?」
僕はもう、ホンマに泣けてきて、うまいこと声が出せれんかった。
「約束じゃよ?」
「うん、約束や」
僕は、目を閉じて静の赤い唇に自分の唇を重ねた。
波の音が聞こえる。
誰かが僕たちを見よったかもしれんけど、どうでもよかった。