ところでこれってもしかして僕?
「神田橋さん、これ落としたよ」
後ろから円に声をかけられて、和が振り返った。
「あーすんません、あっ……!」
手を伸ばした和が思わず声を上げた。
円は手の中のそれを和に返そうとはせず、興味深げにじっと眺めていた。
「あっ、ああっ、ああああああああ!」
和は円の手元を指さして叫んだ。
「はい、うるさいよぉ。ところでこれってもしかして僕?」
円は自分の顔の横に小さなぬいぐるみを並べてそう言った。
藍色と空色の制服、センター分けの黒髪、黒目がちな目。ぬいぐるみは円の特徴をよくとらえていた。 「はっ、はい、まっ、円……やなくて、東雲さんですぅ!」
和は顔を真っ赤にして変な汗をかきながら答えた。
「ようできとんなぁ、神田橋さんが作ったん?」
「はい!」
「器用やなぁ」
円はぬいぐるみを観察しながら、感心したように言った。
「でも、僕だけぬいぐるみにされるっちゅうんもどうかなぁ」
「そっ?そッスよね?!すんませんでした!!」
裏返った声で言う和の顔を、汗がダラダラと流れていた。
周囲に誰もいなかったことが幸いだった。もし遥にでも見られていたら、爆笑必至だっただろう。
「そや、神田橋さん、自分のぬいぐるみも作りいや。ほんで僕に頂戴」
円の思わぬ提案に、和は口を開けて固まってしまった。
「ほしたらこれのことは秘密にしといたあけん」
低く甘い声でそう言うと、円はぬいぐるみを和に返して悠然と歩き去った。
「ピンクの……フェルト、買いに行かな……」
和はそう呟いてから満面の笑みを浮かべると、スキップしそうな足取りで歩き出した。