かき氷食わんと終われます?
「伊勢原さん、もう夏も終わりやし、最後にかき氷食いにいけへんスか?」 集配が終わり、今日も見事に汗でびっしょりになった和が遥に声をかけた。
「おまえは食い物のことしか考えてへんのか?」
呆れた様子で遥が答える。
「えー?だって夏ッスよ?かき氷食わんと終われます?」
面倒くさそうに言う遥の後を、和は小走りに追いかけた。
「まだまだ暑いし、かき氷よりプールがええな。水着姿の和が見たい」 遥がニヤニヤしながら言うと、和はげんなりした顔で「スケベおやじ」と呟いた。
「東雲さんにも見てもらえよ~」
「東雲さんは関係ないでしょ!」
そう言って赤くなる和を、遥は楽しそうに見て笑っていた。
「東雲さんのめっちゃええ体も見たいやろ?事務員にしとくにはもったいないよなぁ」 「ほんなもん見たないわ!」
「海行ったんは去年やったよな?あれから東雲さんまた鍛えようけんな~」 「マジスか?あのおっさん何を目指しとんや……」
和は遥の言葉を聞いて、ぐしゃぐしゃになった髪を手ぐしで直しながら呟いた。
「まあ、男の僕から見てもかっこええけんね、あの人は」
首にかけたタオルで額の汗をぬぐいながら、遥が言った。
「もう、ほの話は忘れぇ!」
疑うように言う和の頭に、遥は苦笑いをしながらぐりぐりと拳骨を押し付けた。
「なんか反応がマジっぽいんスけど?」
「応援してくれるんちゃうん?」
遥は笑いをこらえながら和の脇腹をつついた。
「東雲さんは嫌や……」
涙声で和が言うと、遥は足を止めてよしよしと和の頭をなでた。
「和はホンマに正直やなぁ。ほういうとこが好きやわ」
そう言われた和は、顔を真っ赤にして拳を握り締めていた。
「伊勢原さんのアホーーー!!!」
「すまんすまん、かき氷食いに行こな、東雲さんとエビちゃんも誘お?」
そう言って笑う遥の腹に、和はグーパンを食らわせた。