付き合うとんスか?
「あっついのぉ」
休憩室でスマホをいじっている和の隣に、ぼやきながら遥が腰掛けた。 「ちょっとぉ伊勢原さん!暑いんスから離れて座ってくださいよ!」
不満げに声を上げる和に、まぁまぁ、と遥は自販機から出したばかりのファンタグレープの缶を差し出した。 「ありがとうございまーす!」
先程の態度とは打って変わって、嬉しそうに缶を受け取る和。
「ちょっと訊きたいことがあるんやけどな」
「なんスか、かしこまって」
「かしこまっとらんよ、どっちかというと冗談として聞いてほしいんやけど」
と言いつつも真面目くさった顔の遥に、和も真剣な顔になる。
「もし、僕が男と付き合うとったらどう思う?」
「は?」
和は口を開けてフリーズしていた。
「例えば僕がエビちゃんと付き合うとったら、和はどう思う?」
「付き合うとんスか?」
「例えばやん」
そう言って遥が笑うと、和も白い歯を見せて笑った。
「やるぅ〜!」
和は遥の肩を指で突きながら、冷やかすような声を出した。
「エビは美人やし、伊勢原さんによう懐いとうし、ありなんちゃいますぅー?」
「ははあ」
茶化すように言う和を横目で見ながら、遥はリアルゴールドに口をつけた。
「ほなまぁこれからが本題なんやけど」
「なんスか?」
小声になる遥を、怪訝な顔で見ながら和はファンタを喉に流し込んだ。 「僕が東雲さんと付き合うとったらどう思う?」
「きったないのぉ」
遥はポケットからハンカチを取り出すと、和に渡した。 和はハンカチを握りしめたまま、しばらくむせていた。
「付き合うとんスか?」
ようやく声を絞り出す和。
実際遥と円は和が入社する以前から仲がよく、噂好きのドライバーの間では付き合っているのではと言われていた。
遥は両手で缶を握りしめて、何か考え込むような顔で足元を見つめていた。
そして小さくため息をついてから、背筋をピンと伸ばして座っていた和を見つめた。
「ほんなわけないやん」
そう言うと遥はワハハと声を上げて笑った。
和は脱力して、足を開いて天井を見上げた。
「伊勢原さん、ついでに訊くんスけど、東雲さんって彼女とかおります?」 和は情けない声で遥にそう訊ねた。
「僕の知る限り今はおらんよ、彼女はな」
遥はリアルゴールドを飲み干してそう答えると、和の頭をワシワシとなでた。 彼女は、という一言が問題なのだが、和は気がついていないようだった。
「俺は、伊勢原さんが選んだ相手なら男でも女でもエビでも、……東雲さんでも、応援しますよ」
くしゃくしゃになった髪を手ぐしで直しながら、和が言った。
「ありがとう」
立ち上がって遥が言った。
「え?それってマジってことスか?」
遥を見上げて、疲れきった声で和が言った。
「ほんなわけないやん」
遥は小さく笑うと、空き缶をゴミ箱に捨てて休憩室を出ていった。
「ねぇ〜、東雲さんだけは、やっぱアカンかも〜……」
バタンと音を立てて閉まったドアに向かって、和が今日一番情けない声を出した。