パワー
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発行年月 : 2016年10月(原著), 2018年10月(邦訳)
出版社 : 河出書房新社
ある日女性が電気を操る能力に目覚め、男性を肉体的に凌駕する力を手に入れたことで、世界中の女性が男性を支配する側に回っていくっていうディストピア小説。
男女のパワーバランスがひっくり返ったことで、現実の今現在まで男性の側が女性に対して振るってきた様々な暴力を、パワーを手に入れた女性が男性に対して同じように振るうようになっていく…というあらすじを読むと、もしかすると男性にとってのディストピアという話だったり「結局立場が変われば女だって同じことするんじゃん」的に受け取られる可能性もあるのかもしれないが、本質的には現実社会における無意識的に男性中心になっている支配構造のディストピア性に気づかされる内容だと思う。
面白かったのだけど、女性が男性を電撃で強制的に勃起させてレイプしてしまう場面だとか、あまり考えないで読むと性的に倒錯したポルノみたいにも読めてしまう点だったり、支配的で暴力的になる女性のキャラクターがどうしても目立つので、女の人でも読んでみて怒る人はいるんじゃないかと思った。
著者のエルダーマンは「侍女の物語」や「誓願」のアトウッドの指導を受けた人らしく、まさにという感じ。 最近の広告看板には、はつらつとした若い女が長く湾曲したアークを飛ばしてみせ、かわいい男の子がそれを見て喜ぶという広告が貼られている。それで清涼飲料水やスニーカーやガムを買いたくなることになっているのだ。これは成功し、商品は売れている。しかし、それは若い女たちにべつのものも売っている。こっそりと、おまけとして、強くあれ。そうすれば欲しいものはすべて手に入る、とそれは言っているのだ。 (p325)
実際、男性は何人ぐらい必要なのか。考えてもみよう。男は危険だ。犯罪の大半は男が犯している。男は知的に劣り、勤勉でなくまじめでもない。男は筋肉とペニスでものを考える。男の方が病気にかかりやすく、国の資源を食いつぶしている。子供を作るのに男が必要なのは言うまでもないが、そのために何人ぐらい必要だろうか。女ほどの数は必要ない。善良で清潔で従順な男なら、もちろんつねに居場所はあるだろう。しかしそれは何人ぐらいだろうか。たぶん十人にひとりぐらいではないか。 (p350)
マットは真剣な表情でうなずく。男性の権利を主張するグループがいけないんだよね。あんなに極端なことをするから、こういう反応が起こってくるんだ。でもこうなったからには、自分の身は自分で守らなくちゃいけないね。そこで笑顔になって、次のコーナーでは、ご自宅で練習できる楽しい自衛の技をいっしょに学んでいきましょう。でもその前に、ここでお天気の時間です。 (p351)
悲観の声とは別種の声がある。悲しみは嘆き、叫び、天に向かって声をあげる。母を呼ぶ赤子のように。そんな声の出せる悲観には希望がある。不正は正されると信じ、あるいは助けは来ると信じている。それとは別種の声がある。あまりに長く放置された赤子はもう泣くこともしない。身動きもせず、声も出さない。だれも来てくれないと分かっているから。 (p356)