集合知
精緻な凡庸
集合知として機能する条件
・意見に多様性がある
・意見に分散性がある
・意見に独立性がある
・意見に集約性がある
・意見に大規模性がある
(1)多様性:これは参加者が多様であるということである。ここでいう参加者が多様であるということは、参加者それぞれが異なる視点をもっていたり、異なる情報を利用していたり、異なる推論・判断をするということである。多様性のある参加者の集合であれば、総体として広く可能性を追求することができ、異なる意見・行為を作り出そうことが出来る。その結果、求めるものを見逃すことが少なくなる。
(2)独立性:これは参加者の意見や行為が他の参加者の意見や行為に関係せずに、独立になされるということである。ある参加者が他の参加者に影響を受けているときや、一つの情報に多くの参加者が依存している場合、参加者の意見や行為は独立にならない。そのような場合、偏った結果を出す危険性が大きい。もちろん、達成すべき問題が比較的単純(認知的問題)であれば独立性を保つことはやりやすいが、調整的問題、協調的問題、共創的問題となるにつれ、問題達成のために参加者の相互関係が必要となってくるので、独立性の維持と問題達成のやりやすさはトレードオフになりがちである。
(3)分散性:これは、参加者の視点や行為が散らばっていること、すなわち一つの現象の異なる側面に注目して行為をする、あるいは異なる状況において行為をするということである。参加者の自律的に振る舞うことを担保することで、多様性と独立性が発揮されるii。
(4)集約性:これは参加者の意見や行為が集約する仕組みがあることを指す。ここがインターネットによって劇的に変わったところである。採決や投票は古典的な集約方法であるが、インターネットを利用することで様々な集約方法が可能になった。
(5)大規模性:参加者の人数が十分大きいこと。十分大きいというのは対象とする問題や現象によっても変わるが、基本的に十分に冗長である(同じ意見・行為するひとが多数いること)ことは必要である。達成すべきこと(認知的問題、調整的問題、協調的問題、共創的問題)なのかによっても変わる。
機能しない条件
・意見の均一
・中央集中
・意見の分断
・模倣
・情動
集合知に対する誤解
(2) 「集合知は市場主義の社会化である。」
クラウドソーシングやAmazonの推薦などは我々の日常の行為を収集して、ある種の価値付けをして利用している。これは個人個人の活動が市場メカニズムに組み込まれていくという意味で、市場主義の拡張ではないかという考え方である。確かに健全な市場のためには多様性・独立性・分散性・大規模性が必要であり、これは集合知の条件と同じで、集合知は市場主義と近縁にみえる。しかし、健全な市場とは集合知の発現の一種であり、逆ではない。集合知では価格といった単一の基準以外の方法でタスクの解決をすることができる。とくにWikipediaでみたような協調的なタスク解決は市場主義では実現できない。むしろ市場主義では解決でないことを解決できる仕組みである。
(3)「集合知は効率的な仕組みである。」
クラウドソーシングによるタスク解決は往々にしてこれまでの方法にくらべてコストが安い。これをもって集合知は効率的な方法だと考えるのは間違っている。効率という観点からみれば、集合知は極めて非効率な方法である。多数の貢献があったところで、実際に利用されるのはその一部であり、残りは利用されない。クラウドソーシングがコスト安にみえるのは、余剰時間の活用や社会貢献といった要因からくるもので、投じられた労力を算定すれば既存の方法より非効率である。
集合知の価値は、上記のような既存の方法でできることの置き換えにあるのではない。むしろ、集合知でしかできないことを達成できることに価値がある。とくに協調的・共創的な活動は集合知でしかできなかったことである。