量的研究と質的研究
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看護学は、物理学のような近代科学とは大きく性格を異ににしている。科学の重要な特徴のひとつに反証可能性がある。誰かが実験をして自然界の理の一部を明かしたとして、その実験はまったく別の日とがおこなう追試によってかくにんされなければならない。そして近代以降の自然化学実験は、複雑な自然界を科学の方法論に基づいてモデルとして切り出すことによっておこなわれるのがふつうであった。実験は一回限りのものであってはならず、従って科学者は繰り返しの実験を可能にするため世界をモデル化し、条件を揃える必要があった。何度もトライアルがおこなわれ、それらの結果が総合的に検討される。
しかし看護の仕事は基本的にやりなおしが利かない。看護師と患者は一回性のコミュニケーションの中で最善のことをする。つまり看護師にとっても患者にとってもその看護は人生で一度きりの体験である。
どのようにすれば、一回限りの試行に客観的な評価が下せるだろうか。
そこで注目されてきたのが「質的研究」(Qualitative Research)と呼ばれる方法であった。
「すなわち、個人、集団、文化における社会的現実の理解である。研究者は、人々の行動、見方、感情、経験を探求するために、また、人々の生活の中核にあるものを探求するために質的研究方法を用いる。(中略)質的研究の基盤は、社会的な現実を解釈するアプローチと人間の生きられた経験<the lived experience(現象学の用語)>について記述することにある」
出典
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