文法化
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文法化という言語化現象は世界中のあらゆる言語でみられる。文法化の特色として、その変化が一方向性を持つということが知られている。一方向性とは、言語変化において、内容語から機能語への変化がほとんどで逆の変化はあまりみられないという特徴である。また、往々にして、身体の部位や体に関する経験といった具体的な意味から、空間、時間といった抽象的な概念へと変化する。ベルント・ハイネという言語学者は 人間->もの->プロセス->空間->時間->質
という変化過程の法則性を唱えている。
例えば、英語のbackという単語は面白い例である。もともとこの語は「人間の背中」を意味していたが、「いすの背もたれ」という背中と接触するもののある部分、そして、本などの「背側、裏側」という人以外のものに拡張され、「ことの真相」という時間的関係を表すように副詞的に使われるようになった。また、feedback, kickbackという単語の一部に使われる接尾語へと変化してきている。
この例でわかるように、文法化が内容語から機能語への変化であるといっても、その間をぱっと飛び移るというより、内容語がより機能的な意味を獲得していくという、漸次的な変容過程と考えられる。したがって、内容語と機能語の間にはっきりとした境界があるわけではない。ことばの意味と同様、文の中で単語がどういう役割をになうか、どういうタイプの語であるかという文法カテゴリーも、プロトタイプカテゴリー的構造を持っているのである。
出典