弱い繋がりと強い繋がり
弱い紐帯の強さ(the strength of weak ties)/ 橋渡し
「弱いつながり」の誤解と本質──社会ネットワーク研究の世界(前編)
バートは、つながっていない者同士にある穴を「構造的空隙(structural holes)」と名づけ、この空隙(くうげき)を活用することで得られる「情報利益」や、空隙を保ったまま互いにつながりのない二者を操作することで得られる「統制利益」など、さまざまな利益が得られることを主張しました。 個人がつないでいる構造的空隙の量を、バートは「拘束度」として数量化可能な形で定式化しました(Burt 1992)。グラノヴェッターの理論を拡張したものですが、ここではつながりの〈強度〉の側面は捨象され、〈構造〉の重要性が強調されています。
構造的空隙の理論にもとづいた実証研究は枚挙に暇がありません。例えば、構造的空隙を多くもっている社員ほど早期に昇進しやすかったり(Burt 1992)、革新的なアイデアを生み出しやすいことが分かっています(Burt 2004)。そればかりか、イタリア・ルネサンス期のメディチ家の栄華が、経済的なつながりと伝統的貴族のつながりを仲介する構造的空隙の賜物であると主張するユニークな研究も存在しています(Padgett and Ansell 1993)。
強い繋がり
結束
前回紹介したグラノヴェッターの「弱いつながり」と対をなすように、「強いつながり」の重要性を主張し続けているのが、カーネギーメロン大学の社会学者デイヴィッド・クラックハートです。
クラックハートは、「強いつながりの強さ(the strength of strong ties)」という論考の中で、「情報利益」という点で弱いつながりの優位性を認めつつも、「フィロス(philos)的な関係性」が、組織内の重大な変化にとって必要不可欠であることを主張しています(Krackhardt 1992)。
フィールドワークを通して、クラックハートはその企業内で仕事の助言をよく求められる人のネットワークと、プライベートでも親しく付き合いのあるネットワークをそれぞれ可視化し、比較することで、その失敗の要因を解明します。
研究結果からクラックハートは、仕事関係のネットワークと友人関係のネットワークでは、キーマンは必ずしも一致しないことを明らかにしています。つまり、オフィスで助言を求められる人物と、プライベートで愛着をもたれる人物は、決して同じとは限らないのです。
投票が集まらなかった原因は、友人関係のネットワークにおいて非中心的な人たちが加入運動を率いていたためだとクラックハートは分析しています。組織を大きく変えるような意思決定には、仕事の力量が高く、社内で多くの助言を求められている人物に頼りがちですが、本当は多くの人と親密な信頼関係を結んでいる人をこそ巻き込むべきである。すなわち「フィロス的な関係性」が重要な役割を果たすというのです。
出典
橋渡しと結束のバランス
https://gyazo.com/45be8bc1282e7fc6cc764327dd8d1300