学習目標
CSP-PO
CS
何よりも、「サクセス・フォー・オール」は目標を高く設定していた。このプログラムの成功の秘訣は当時も今も変わらず、目標設定にある。生徒たちは学習予定のテーマを確実に学習できるように、何度でもグループ替えされる。ついていけない生徒は必ず個別指導を受ける。カリキュラムは鍵と鍵穴のようにぴったりと噛み合うべく組まれている。生徒の特定のニーズに合わせて専門家に執筆してもらった、独自の教科書まで出している。
つまり「サクセス・フォー・オール」の成功の要因は、学習は偶然にできるものではない、とごく単純明快に考えたところにある。特定のスキルを習得するにはそれなりにやるべきことがある。この考えは、学習はプロセスであり体系であるという概念に通じる。知識を習得するにはその知識の習得に特化した方法が必要なのだ。
このアプローチは大半の人にとってはなじみがない。新しいことを学ぼうとするとき、人はたいてい体当たりで臨みがちだ。専門知識を自力で習得しようとし、思いのほか難しいとわかると「自分には向いていなかったんだ」と考えてしまう。学習は手探りでするものだというこの思い込みは広く蔓延している。一般の人を対象に私が行ったアンケート調査では、五割以上が新しいスキルの習得には「発見型学習」──つまり指導なしの学習──が優れていると回答した。
ここで私が言いたいのは、何も考えずに学習してはいけないということである。創造性と発見はやはり重要だ。深い理解を生み出す機会も重要だ。だが学習の入り口の段階では、プロセスをしっかり管理する必要がある。学習とは要するに一種の知識の管理ナレッジ・マネジメントである面が強い。すなわち目標設定、計画策定、前提となるスキルの習得、習得したい専門知識の絞り込みを行うということだ。
学習目標設定の困難性
この考え方について詳しく知ろうと、コロンビア大学の心理学教授ジャネット・メトカルフェの研究室を訪ねた。長年にわたり学習の目標設定に試行錯誤する学生たちの研究を行ってきたメトカルフェは、人は学習の目標設定が下手だと言う。メトカルフェの研究によれば、人は新しいことを学ぼうとするとき「すでに知っていることか、自分にとって難しすぎること」をめざしがちだ。
メトカルフェが主張するように、学習の絶好の機会は常に動いている。たえず変わり続ける目標なのだ。スキルを一つ学んだら、次のスキルにステップアップしなければならない。優れたビデオゲームはここがよくできている。プレイヤーは必ず自分のスキルから少しだけ踏み出してプレイする。各レベルは一段階前のレベルより少しだけ難しい。マスターしたい目標がこうしてたえず進化していくおかげで、集中力が途切れず、ゲームのスキルは向上し続ける。