天才マネジメント
「天才」とうまく付き合う
おそらくマネジャーが抱える最も厄介な問題の一つが、ケタはずれに有能だが、仕事がやりにくい社員、いわゆる「ディーバ」(傲慢なスター)の扱いだろう。私たちもハイテク業界で働くなかで、当然、こういう人たちをたくさん見てきた。
ビルはこのような人材をうまく扱うことが、経営者の大きな仕事の一つだと、かねがね言っていた。彼らを「規格外の天才」と呼び、こう言った。
「会社の差別化に大いに貢献してくれそうな、おかしなやつらが入ってくる。会社が混乱に陥らないように彼らをマネージするのが、君らの仕事だ。ほかの人と力を合わせられるようにするんだ。でなきゃ、お払い箱にするしかない。全員が協力し合う環境で働かせなくては」
彼らがパフォーマンスを発揮できるようサポートし、彼らとの争いに費やす時間を最小限に減らそう。その分のエネルギーを、彼らが問題行動を抑えられるようコーチすることに注ぎ込もう。これをうまくやった場合の見返りはすばらしいものだ。彼らの天才性を引き出しつつ、傲慢さを抑えることができるのだ。
私たちの経験から言うと、規格外の天才はとてつもない価値と生産性を実現する力を持っている。彼らはめざましいプロダクトやパフォーマンスの高いチームを生み出す。目端が利く。いろいろな意味で、ただただすぐれている。
そして彼らは規格外の才能とパフォーマンスに見合う、特大のエゴと脆もろさを持っている。同僚をだしにして個人的利益を得ようと画策することも多い。「自分が自分が」という態度が見え隠れし(または丸見えで)、同僚の恨みを買ったり邪魔になったりする。
バランスを取る技術が必要になるのはここだ。「規格外の行動」は、一つまちがえば「常軌を逸した行動」になる。どこまで許容するか、限度を超えるのはいつか? どこで線引きをするのか? 倫理の一線を越える者を許してはならない。たとえばウソをつく、誠実さや倫理に欠けた行動を取る、同僚への嫌がらせやいじめをするなど。これらは明確に対処できるので、ある意味簡単なケースと言える。
功罪の「両面」を分析する
規格外の天才はチームのコミュニケーションを阻害していないか? 人をさえぎったり、攻撃したり、非難したりしていないか? 発言しにくい空気をつくっていないか?
規格外の天才は経営陣の時間を食いすぎていないか? 彼らの行動がチームに許容できないほどのダメージを与えているかどうかは、判断がむずかしい。だがダメージコントロールに何時間もかけているようなら、それは行きすぎの危険信号だ。その時間の多くは言い争いに費やされ、建設的な結果につながることはほとんどない。
「あいつの肩を持つことなんかない」と彼は言った。「もちろん、グーグルを偉大にしている、あの才能はすごい。だがいい面だけを見て、悪い面に目をつぶるなんてできるか? あいつに一日18時間もかけるわけにはいかない!」
※ 2017年の「ハーバード・ビジネス・レビュー」に掲載された、マンフレッド・F・R・ケッツ・ド・ブリースの論文によれば、ナルシシスト(規格外の天才の多くがそうだ)への対処法の一つが、直接対決をできるだけ避けることだ。「一日18時間」というのは、まさにその直接対決にかかる時間なのだ。
規格外の天才は、優先すべきことをわきまえているか? おかしな行動が許されるのは、それが会社のためになる場合(または少なくともそう意図している場合)にかぎる。決して許されないのは、規格外の天才がチームより自分をつねに優先させることだ。
これはチームの中核業務に隣接する領域で生じがちな問題だ。天才はセールスであれ、プロダクトであれ、法務であれ、自分の職務で見事な活躍を見せる。だが報酬や注目、昇進といった領域になると、傲慢さが頭をもたげるのだ。
規格外の天才は自己アピールや自己宣伝がすぎないか? ビル自身はメディアの注目を好まず、注目を求めすぎる人間には裏があると思っていた。宣伝は会社のためになるかぎりはかまわないし、じっさいそれはCEOの仕事の一部でもある。だがもしあなたがCEOで、経営陣の誰かがつねに注目を集めようとしていたなら、それは危険信号だ。