利得対価のスキーマ
利得対価のスキーマ
コスミデスが考えた社会契約ベースの推論*2
ある部族では部族長への忠誠を示すために顔に刺青をする習慣がある。またこの地域にはキャッサバという滋養豊かな食べ物と、モロナッツというふつうの食べ物がある。この部族の決まりとして、キャッサバを食べるのであれば、既婚であり既婚の印となる顔の刺青がなければならない。ここに四人の刺青の状態と食べているものがそれぞれ表と裏に書かれてあるカードがある( 図6-2)。規則を守っているかを確かめるためにはどのカードを裏返すべきか。
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ただ、この問題では許可のスキーマを用いている可能性もある。つまり、これもキャッサバを食べるという行為と、刺青をするという前提条件に関わるものだからである。一般に利得と対価を含む社会契約に関わることがらは、定義上どうしても行為とその前提条件という許可の構造を持たざるを得ない。だとすると進化も社会契約も関係ないことになる。
そこでコスミデスが考えたことは、許可の構造を持つが利得と対価が関わらない問題ではどうなるかということである。そこでキャッサバもモロナッツもふつうの食べ物であるというバージョンの問題を用いた。つまりキャッサバを食べることは利得とはならないということである。もし許可のスキーマを用いているのであれば、このバージョンの問題でも同様に高い正答率になるはずである。なぜならば、キャッサバを食べるという行為と刺青(結婚)という前提条件が含まれるからである。一方、社会契約という考え方にしたがえば、ここでは利得と対価の構造がなくなるので正答率は低くなることが予測される。結果はコスミデスの予測通り、正答率はかなりの程度低下した。したがって、この種の問題は許可のスキーマを用いたのではなく、利得─対価のスキーマを用いて解いた可能性が高い。
論文
*2, Cosmides, L. (1989). The logic of social exchange: Has natural selection shaped how humans reason? Studies with the Wason selection task.
出典