作動記憶(ワーキングメモリ)
You don't know? “鈍脳”
「頭の回転の速さ」に脳内ヒスタミンが関与
「十八年という歳月が過ぎ去ってしまった今でも、僕はあの草原の風景をはっきりと思い出すことができる。何日かつづいたやわらかな雨に夏のあいだのほこりをすっかり洗い流された山肌は深く鮮やかな青みをたたえ、十月の風はススキの穂をあちこちで揺らせ、細長い雲が凍りつくような青い天頂にぴたりとはりついていた。空は高く、じって見ていると目が痛くなるほどだった」(村上春樹, ノルウェイの森(上), 講談社, 1987, p.7)
このやや長い引用は、ワーキングメモリの働きを考えてもらうためのものである。この文章を読んでいる間、我々は、あたかも真っ白なキャンバスに色を描き入れるようにして、記述された風景を順々に思い描いていく。たとえば、もし、ススキの穂を描き入れるときに、山肌の色を忘れていたら、全体の風景を構成することはできない。もちろん、最後の「絵」を描いてしまった後には、「途中の絵」を覚えておく必要はないのだが。
大部分の言語情報は、時系列にそって順々に我々の中に入ってくる。この時々刻々と提示される情報から全体的な構造、あるいはメッセージをつかむためには、少なくとも後の関連情報が提示されるまでの間、先の情報を覚えておく必要がある。また、何かを話そうとすると、意図した内容をすべて発話し終わるまで、それらの内容を保持しておく必要がある。課題遂行中に一時的に必要となるこのような記憶の働き、あるいは、これを実現している機構やシステムをワーキングメモリ(working memory)と呼ぶ。そしてこの記憶は、言語情報の処理に不可避的に必要となる機能なのである。もちろん、ワーキングメモリの働きは、言語情報の処理に限定されたものではなく、さまざまな認知的活動におけるその役割の重要性が指摘されているが(三宅・齋藤2001)、言語処理においてはとりわけ肝心な機能であるといえよう。
出典
論文
(三宅・齋藤2001)
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ワーキングメモリは音韻ループ、視空間スケッチパッド、中央実行系の三つからなっているとされる(近年はこれにエピソードバッファも加えられている)。音韻ループは大ざっぱに言って、音韻的な情報の保持に用いられる。視空間スケッチパッドは視覚的な情報の保持に用いられる。中央実行系はこれらの保持と処理のために用いられる認知的資源を管理する。
覚えておくべき数字の数がグッと増えて「3、2、6、8、7、4、3、1」というようになると、逆唱や足し算はほぼできなくなってしまう。こうしたことは、中央実行系が保持のためにその資源を使ってしまい、操作のための資源がなくなってしまうというように考えるのである(あるいは操作を行おうとすると保持のための資源がなくなってしまう)。一方、視覚系の情報と聴覚系の情報は独立して保持されるために、聴き取りで数字を覚える際に、視覚情報を使った処理課題を行っても、あまり干渉を受けないこともわかっている。
ワーキングメモリが保持する情報の型
・中央実行系
・視空間情報(視空間的スケッチパッド)
・言語・音韻情報(音韻ループ)
・エピソード・バッファ
https://gyazo.com/8509057b33079a53f116fafd8630c975
出典
論文
Baddeley, A. D., & Hitch, G. (1974). Working memory.
Baddeley, A(2000)The episodic buffer: A new component of working memory?
Baddeley, Alan,Gathercole, Susan,Papagno, Costanza(1998):The Phonological Loop as a Language Learning Device
Baddeley, A(2003):Working memory: Looking back and looking forward
Baddeley, A(2017)Working memory: Theories, models, and controversies
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課題を遂行するために必要な情報を一時的に保持したり、保持されている情報に操作を加えたりするシステムをワーキングメモリという。イメージの操作を行うには、そのイメージ情報を生成し、一時的にワーキングメモリに保持しておかねばならない。
空間の位置情報を保持しなければならない空間のワーキングメモリ課題に対しては右の下頭頂葉(主として40野)が、また、2次元図形の形のワーキングメモリ課題においては、後頭側頭葉の下部が活動し、とくにそれは左半球で顕著であった(Belger et al.1998)。
出典
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