ディッチングポイント
急速にブームが冷めるメカニズム。
社会的流行は社会関係資本の提供者によって始まり、社会関係資本の浪費者によって失われていく。
ブームはある程度時間が経つと、市場が飽和状態に達し、飽きられ、流行遅れになる。しかし、「あるアイデアや流行もしくは社会的行動」の終息には、アイデンティティを失い、破滅する過程・メカニズムがある。
ディッチングポイントの三段階
虚栄の市(Vanity Fair)
アイデンティティ・クライシス(identity Crisis)
スキャンダルの力(Power of Scandals)
ディッチングポイント少数者の法則
便乗屋
ミートゥアー(Me-tooers)
ギャング(Gang)、ゲッターズ、出会い厨
トラブルメーカー(Troublemakers)
ディッチングポイントの段階
虚栄の市(Vanity Fair)
「アイデアや流行もしくは社会的行動」が伝染病のように広まっていくにつれて、「慎ましさ」が忘れられ、時代のトレンドとしてそれを形成・支 持・享受してきた人たちの間に自惚れた空気、すなわち「虚栄の市」が生まれる。その流行に便乗しようとする「ミートゥアー」がやってくる。
ミートゥアー(Me-tooers) フォロワー
「ミートゥアー」は尻馬に乗る便乗屋である。自己顕示欲や金銭欲、物欲などを満足するために、その流行を利用している。ジュリアナ東京の「お 立ち台ギャル」がその好例である。彼女たちは羽根付きセンスを手に、Tバックをちらつかせながら踊っていたが、すべての曲で同じ動きだったように、そのレ ベルは著しく低い。関心があるのはあくまでも自分自身に対してであり、「アイデアや流行もしくは社会行動」そのものに関する知識・技能・情熱は乏しく、向 上心も持ち合わせていない。
ギャング(Gang) ゲッターズ、出会い厨
しばらくすると、このミートゥアーを目当てに「ギャング」が現れるようになる。彼らは便乗屋に便乗しているのであり、その意味で、ミートゥ アーより悪質・下劣である。ジュリアナ東京のケースで言うと、お立ち台ギャルに群がった「ゲッターズ」がそれに相当する。ギャングの関心は、ミートゥアー 以上に、自分の欲だけで、その「アイデアや流行もしくは社会行動」が今後どうなろうと知ったことではない。
アイデンティティ・クライシス(identity Crisis)
ミートゥアーとギャングが我が物顔で振舞ったり、占拠したりし始めると、これまでそれを形成・支持・享受してきた人たちが「こんなものは違 う!私が愛してきたものはどこにいったんだ?」としらけ、幻滅し、離れてしまう。「アイデアや流行もしくは社会行動」はミートゥアーやギャングが幅をきか せるにつれ、本来持っていたアイデンティティが喪失していく。アイデンティティはリテラシー習得とコミュニケーション活動によって形成される。リテラシー とコミュニケーションが軽視されると、アイデンティティが怪しくなってくる。人気はさらに膨らみ続けるとしても、アイデンティティ・クライシスに陥り、そ の中身は空虚になってしまう
トラブルメーカー(Troublemakers)
この危うい状態に「トラブルメーカー」が入りこみ、スキャンダルを引き起こす。それは多くのメディアを通じて巷に知れ渡り、その流行は急速に しぼむ。アイデンティティが喪失しているため、スキャンダルに反論できるだけの筋の通った説得力はもはやない。コレがディッチング・ポイントに達した瞬間である。
ミートゥアーとギャングによる乗っ取り状態が生まれて、初めて、「トラブルメーカー」が出現する。トラブルメーカーは自分が見えておらず、社会性ないし協調性に乏しく、独善的で、他の場面でも、騒動を起こす傾向が顕著である。ヒッピー文化におけるチャールズ・マンソンや「ライブドア・ショッ ク」で株式市場を冷えこませた堀江貴文を思い浮かべればよい。
ディッチングポイントへの対処
一つはミートゥアーが目立ち始めた段階で、ギャングが集まってこないように対処することである。ミートゥアーにギャングが便乗してくると、ア イデンティティが失われてしまう以上、その前に芽を摘んでおけばよい。アイデンティティが維持されていれば、ディッチング・ポイントは訪れない。
もう一つはミートゥアーとギャングが揃った段階で、自ら縮小の道を選ぶことである。トラブルメーカーが現れれば、壊滅的なディッチング・ポイ ントを迎える。だったら、その前に、原点を見直すほうがよい。ミートゥアーとギャングの占領を潜在的なトラブルメーカーの出現と見なすというわけだ。被る 損害も決して小さくないが、適正規模に至る過程でアイデンティティを再発見し、社会的に定着できる。
ジュリアナ東京は、ミートゥアーとギャングが店内を占拠し始めた段階で潮時とし、閉店を決断している。この英断がなければ、トラブルメーカー によるセンセーショナルなスキャンダルに巻きこまれていた危険性は高い。流行現象に対してはうさんくささや反感を覚えている人も少なくないので、メディア は待ってましたとばかりに騒ぎ立て、つぶしにかかる。ディスコ文化のディッチング・ポイントを回避するために、自ら収縮させる道を選ぶことはアイデンティ ティを回復し、生き延びていく賢明な判断である。
ディッチング・ポイント後の定着型・解消型・再建型
定着型
革命性を捨て、適正規模を認知して身の丈をわきまえる代わりに、一般ないし忠誠心の高い人々の間で定着していくケースである。 1990年代にブームとなった中華料理がそれにあたるだろう。もっとも、日常生活に不可欠なものであれば、スキャンダルにかかわらず、背に腹は変えられな いので、人々のニーズはある程度存在する。
解消型
ディッチング・ポイントをきっかけに、壊滅してしまうケースである。ただし、たんに消えるのではなく、他の「アイデアや流行もしく は社会的行動」を生み出す発展的解消をとることが多い。ヒッピー文化はオルタモントの悲劇やシャロン・テート事件によって消滅したけれども、元ヒッピーは エコロジーやICTの発達に寄与している。
再建型
壊滅的な打撃を受けて低迷していたところに、画期的な新規参入が現われ、復活を遂げるケースである。1980年代後半のアメリカに おけるビデオ・ゲーム市場が好例である。1983年にアメリカのゲーム市場は崩壊したが、1985年、任天堂のファミリーコンピュータの発売を皮切りに、 日本製のビデオ・ゲームが次々と売り出され、息を吹き返している。
出典
マルコム・グラッドウェル「ティッピング・ポイント」×佐藤清文
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携帯電話やPHSの普及期に、携帯電話販売代理店「HIT SHOP」を全国展開して新規の回線契約者に端末を無料で提供し、一契約あたり数万円の報奨金を得て急速に事業を拡大した。
1990年代後期のITバブル期に投機銘柄として急騰したが、携帯電話市場は飽和して新規契約は頭打ちになり、「DDI」に対する架空契約(寝かせ)が大量発覚して2000年3月に急落した。「2000年8月期の業績を上方修正する」と記者会見して上昇したが、2週間後に60億円の黒字から130億円の赤字へ大幅下方修正が発表されて再下落した。「これ以上に洗練された組織モデルはない」と自画自賛した組織モデルの現況不一致が発覚し、市場で不信感が増幅して最高値24万円から3か月で8000円台に急落した。2000年の年間値下がり率は99.1%でワースト記録となる。
新興ITベンチャー企業へ積極投資をしていたことから、投資先のほかに光通信と無関係のIT企業も経営実態を疑心され、株式市場の大幅安を呼びこみ「ITバブル崩壊の大立役者」と揶揄された。
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