ガバガイ問題
表記の揺れ:ギャバガイ問題
言葉の獲得において有名なガバガイ問題というものがある。これは指示の不確定性を示すために、クワインという二〇世紀を代表する哲学者が考案した問題である。たとえば幼い子どもに、携帯を手にして「これは携帯だよ」と言ったとする。この時、携帯という名詞が指示するものは何だろうか。論理的に考えると、これにはほぼ無限の可能性がある。たとえば「携帯」とはそれの固有名詞であるとか、その色であるとか、形であるとか、大きさであるとか、材質であるとか、誰かが手にしているものであるとか、さらにそれらの組み合わせ(茶色で直方体状のものが誰かの手の中にある状態)などを考えれば無限の可能性が出てくる。
しかし、子どもはそんな無限の可能性の中で悩むことはない。「携帯」という名詞は、単にそのような形をしたものの集合(カテゴリー)を指示する、という制約に基づいて単語の意味を獲得する( 38)。
子どもが急激に言葉を獲得していくことの背後には、以上のものを含めたさまざまな制約のはたらきがあるとされる。たとえば、相互排他性制約(ものの名前は一つである)、事物全体性制約(与えられた名前はその対象の全体に対する名前である)、事物カテゴリー性制約(与えられた名前は固有名詞ではなくそれが属するカテゴリーに対する名前である)などで
出典
(38), 今井むつみ(2000). 心の生得性──言語・概念獲得に生得的制約は必要か
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ビアリストクとハクタによる言葉を習得するための方略*1
1.対象全体の制約
ある語は対象のある部分や性質ではなく、対象全体を指す
例えば、ある動物を指して「イヌ」と言えば、イヌという言葉は指した動物のことで、哺乳類といった上位概念でもなく足や尻尾といった一部でも、走っている動作でもないとする
2.対比の原理
新しいラベルを聞いたら、すでに知っている言葉と対比する
3.相互排他性
メリマンとボウマンによる説明*2
物事と名前の間には単純で直接の関係があるとみなす
未知の名前は未知のものをさす
既知のものには既知の名前を指す(別の名前を結びつけない)
参考
*1, Bialystok, E., & Hakuta, K. (2000). 外国語はなぜなかなか身につかないか: 第二言語学習の謎を解く. 重野純, 訳.). 東京: 新曜社.
論文
*2, Merriman, W. E., Bowman, L. L., & MacWhinney, B. (1989). The mutual exclusivity bias in children's word learning. Monographs of the society for research in child development, i-129.
出典