『チームトポロジー』
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What Team Structure is Right for DevOps to Flourish?
チームトポロジーをより丁寧なタイトルにすると「認知負荷を元にしてチームの幾何学的関係を設計する」だろうか。認知負荷は取引コストの部分要素。現在のチームや組織構造を認知負荷では説明できない。
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『チームトポロジー』を読み終わったが、自分にはスタイルが合わなかった。事実と手続きによる教授主義の書かれ方が中心で、学校の教科書のスタイルだ。自分には原因と結果と、原因が結果を引き起こすメカニズムの理解のほうが合っている。世の中には真っ白な紙を出されると恐怖するタイプの人と、喜ぶタイプがいるが、自分は後者なので、本の良し悪しというよりもスタイルが合わなかった。
具体的にスタイルを見ていくと、一つ一つのセンテンスの主張を原因とそれが引き起こす結果を検証しながら読み解いていこうとすると、因果関係を説明することなく話が続いている。やったことと起きたことが描かれるが、なぜ引き起こされたのかの説明はないか「証明されている」で終わっている。しかし参照された論文や研究も、著者の主張との結びつきは描かれずに挿入されているだけなので、名言を配置してお墨付きの得るためだけのように見えてしまう。論文を示しただけでは証明にはならない…。学術的根拠は、その根拠が事態に適合するときだけ役に立つ。学術的根拠をただならべても何の意味も無く、適合させるのは読者ではなく著者の仕事であると考える。
このようにして「なにがこの結果を引き起こすのか」を伴うことなく、様々な事象の紹介で終わっている。ワークショップやふりかえり系の本と同じだ。ひたむきな行動が目的ならそれが適しているが、これは設計の本ではなかったのか? 設計には因果関係に基づくメカニズムの理解が不可欠だと思っていたのだけど…。「電子工作ができるようになる本だと思ったらLチカだった」みたいな。
この本から覚える違和感の正体は「設計」といったメカニズムの理解を要する工学的なニュアンスを打ち出しているのに、メカニズムの理解を深く必要としない説明に傾倒している点だ。著者はこれを読んで設計できるようになると本気で思っているのか? つまり標榜するアウトカムが実現すると自身が本当に信じているのか?
これは個人的な注目していた点だが、致命的なのは、この本で語っているのは分業のやり方に終始していることだと思う。「分業トポロジー」といってもいい。いかに分業の形を整えるかは重要だ。しかし重要なのは、分けられた仕事を一人のメンバーや顧客から見て、全体性をもっていかに組織性として統合していくかと私は考える。
本書は全体性のある秩序に向けた働きかけが弱々しい。CxOが読者対象に含まれているが、チーム同士でトレードオフが生じる利害が起きたときにどのように対処するかといった介入は明確には書かれていないし、開発以外の営業チームやマーケティングチームはほぼでてこない。書かれていたとしても「サポートが近くで働いているようにしよう」といったものだ。ただこれは自分の誤読だったのかも知れない。副題が「Organizing Business and Technology Teams for Fast Flow」なのだけれども、(Business and Technology) Teamsではなく、Business and (Technology Teams)だったのかもしれない。
しかし、以上のようなことは他人の本ならよく見えてくるが、自分の文章だと「失明しているのか?」と思えるくらいに盲目になってしまう。100点を目指して自戒していきたい。また原著は絶賛されているので自分が世間とずれてしまっているだけなのだろう。より多くの価値を見いだせるように、時間をおいてもう一度トライしたい。
一番気になったツッコミ所
簡単に使えるサービス(プラットフォーム至高のアプローチが望ましい)や、チームが不慣れなタスクを行うときにすぐに頼れるスペシャリストといったサポートシステムがないままにプロダクトチームを作ると、多くのボトルネックを作り出す。
へえ…ボトルネックはたくさんあるんだ…著者はDevOpsの専門家だと思ったけど…それともボトルネックの概念は変わったのかな?
『チームトポロジー』二週目。取引コストを扱わないところが疑問だ。
そもそも企業や組織はなぜ存在するのだろう? 無数の個人が必要とするものを交換すれば企業はいらないのではないか?
取引について考えてみよう。必要とするものを交換する時、私たちは取引をする。この取引にかかる負担が取引コストだ。食べ物を手に入れるとしよう。その時、次のことを考えなければならない。
・検索コスト 誰から買えるだろうか? 探さなければならない
・調査コスト 相手は信頼できるだろうか? 騙しされないか、能力はあるか調べなければならない
・交渉コスト 相手は売ってくれるだろうか? 取引を進めなければならない
・監視コスト 相手は取引を履行してくれるだろうか? しっかりみないといけない
・紛争コスト 相手といざこざが起きたときどうしようか? 決着を付けなければならない
※上記は一例で研究者によって異なる
このようなコストがかかる。メルカリやヤフオクや、フリーマーケットで私たちが気にしていることだ。もし、すべてのものをメルカリやヤフオクで手に入れなければならないとしたら大変だろう。万人が万人に対して個人取引をするのはめちゃくちゃコストがかかる。
しかし相手と何度も取引をして毎回満足できていたり、信頼できる人からのお墨付きがあれば、取引コストは少なくて済むようになる。しかしそれでもある程度の手間暇はかかってしまう。毎日も購入するのであれば、いっそ相手ごと手に入れてしまえばいいのではないか。そうすれば取引にかかるコストは限りなく少なくて済む。
このようにして一緒になったほうがコストが低くなるとき、組織が生まれる。取引を省略したり、ヒトモノカネといった資源を共有化する組織が起こる。つまり企業や組織とは取引コストの力学から自然に生成される構造組織体である。地球外知的生命体がいたとしたら、取引コストが生じる限り企業を発明するだろう。
もっと簡単にいえば、内で作るか、外で買うか。
経理などの日常業務は需要が実に発生している。だから外注するより社内でできるようにしたほうが安上がりになる。知財を活用するために弁理士と相談するとしよう。でも年に一度あるかどうかなら必要になったら外で買う(外注する)ほうが安上がりになる。
自社にとって補完財を生産する企業を買収するのも、競合を買収するのも取引コストの発生ポイントが異なるだけで、取引コスト削減のための活動だ。取引コストが人と人が協力するうえでの根幹だ。このメカニズムを明らかにしたのがロナルド・コースとオリヴァー・ウィリアムソンで、ノーベル経済学賞を受賞した。
だから組織のデザインをするときに取引コストを念頭に置かないというのは、少なくとも2021年の時点では私には考えられない。