それそのものの話をする
それを取り巻く社会関係、その裏側にあるロジック、それがもたらした状況じゃなくて、それそのものの話をしたい
ソフトウェアそのものを議論しなければ、その原因よりも影響ばかりを追いかけ続けることになる。つまり、背後にあるプログラムや社会文化を見ずして、コンピューター画面に映し出された結果だけを見るようなものだ。
If we don’t address software itself, we are in danger of always dealing only with its effects rather than the causes: the output that appears on a computer screen rather than the programs and social cultures that produce these outputs.
Lev Manovich “Software Takes Command”
動機がシリコンバレーで非常に重要な理由は、シリコンバレーのかなり多くの人たちが間違った動機を持っているからだ。成功するスタートアップを始めることは、あなたを金持ちにしたり有名にしたりする。だから、スタートアップを始めようとする多くの人たちは、そういった理由でスタートアップをやっている。何の代わりに? 「問題自体への興味」の代わりにだ。これが真面目さの根源だ。
これはオタクの象徴でもある。実際、人びとが自分自身を「X オタク」と言い表すとき、彼らが言いたいのは自分たちが X 自体に興味を持っているということであり、X に興味を持つことがカッコいいとか、X から得られる産物のためではない。彼らは X に非常に関心があり、X のためにカッコいいと思われることを犠牲にしても構わないと言っている。
Paul Graham 「真面目さ」
小玉 千陽さんとお話したときに、ドラマ『VIVANT』の話になった Netflixのような外資が入らずに、民法だけであれだけ大規模なロケ、海外品質のカラーグレーディング、そして『プリズン・ブレイク』ばりにスピード感のあるシリーズ構成に驚いた、と仰ってて
その話を聞いた後に、2日くらいどういう訳か凹んでいた
色々思ったんだけど、多分『VIVANT』の話をしているようで『VIVANT』の話をしていないんですよね
別に小玉さんは「外資が入ってないのにあのクオリティ」だから感動したんじゃなくて
『VIVANT』の中で描かれる事物それ自体に感動していたはずで。
なんだけど、ミクロな質感や手法に興味があるbaku89.iconと、事業立案やブランディングに携わられている小玉さんでは畑が違うというう話を抜きにしても、
小玉さんが生き生きと語る世界に、ドラマそれ自体に素朴に感動する一ファンとしての小玉さんが存在していないことが、なんだかショックだった
けど一方で「それそのものに肩入れせず、それを取り巻く関係性や抽象的な構造に価値を見出す」方法って、ホワイトカラーとして生きる上で適応的な戦略なんだと思う
クライアント、チームビルディング、ターゲット、体験…
実際そこにあるのは具体的な相手だったり、具体的な共同制作者、そしてそれを使ったり観てくれる具体的なお客さんだったりするわけで、それを不定冠詞つきの「クライアント」だったり「ユーザー体験」という言葉には抽象化できないところがあると思っている
多分baku89.iconは、「知性」というものが本来的に志向する抽象化や帰納の快楽を、プログラミングのような道具鍛冶だったり、制作それ自体に向けることで解消してしまっているので、それをもっと人的資本やビジネスロジックのようなものに向けることをあまり魅力的だと思えない。ああいう人たちが言っていることが、言葉を選ばずに言うと、とても空虚に思える。デザイン、ものづくり、クラフトについて語っているように思えて、実はそれそのものではなく、それを取り巻く関係性や状況の話ばかりをしているために、そうして生まれたものはどうしても退屈になる
けどその空虚さ、退屈さこそが、企み人としてサバイブしていくうえでの適正なんだとも思う。これはそのうちもう少し詳しく書くけど、空虚さはむしろまっさらさでもあって、だからこそその時々市場に要請されるものごとに柔軟に適応していくことができる。その人の主体性とか、その人自身のお気持ち、感想なんてものはむしろ無い方が良い。美人投票的な世界をラクに生きるには、美人さに対する強い信念とか、美人という概念への疑いなんてものはちっとも役に立たないから。「みんなが美人だと思う人が美人」と腹から思えたほうが、悔しいかな適応的な生き方なんだと思う 「それそのもの」の話をせずに、興味や多相的なまま留め置くことに対する反感について、いつか小玉さんみたいな汎デザイン主義的な界隈の人と腹を割って話すべきなんだと思う。すごく嫌われそうだけど