「まちがう、ゆえに我あり」第2部講義メモ
01:32:09 第2部開始
ここまでの話はメカニズム、「どのように」の話。進化学は「究極要因」と言われていて、つまり「なぜ、そうなったのか」の観点
01:33:38 進化学(進化心理学):「なぜ?」への解答
血縁淘汰説(利己的遺伝子説)
生物個体は遺伝子がコピーを残すために一時的に利用する乗り物/ロボットにすぎない
進化学による認知バイアスの説明
論理的な思考(システム2)に、遺伝子の利益に結びついた直感(システム1)が介入する
論理学を勉強しても生き残れるわけではないですからね(國安)
記号論理学を使うようになったのは生物何億年の世界でこの200年くらい。これまで必要なかったし、今もほぼ必要ない(吉川)
BC4世紀にアリストテレスが三段論法を定式化して、次のブレイクスルーが19世紀のフレーゲ。それくらい我々にとって新しい道具(吉川) 01:40:04 進化学から見た人間
ヒトの目的構造の論理
この本は今日紹介する中で一番好きくらいの本(吉川)
01:41:25 entaki「この本図書館で読んでたけど、重版されてなくて高め…(´・ω・`)」 乗り物の利益のみに適う目的
記号論理学大好きとか(吉川)
遺伝子の利益のみに適う目的
不穏当な例しか思いつかないんですけど…(吉川)
乗り物と利益と遺伝子のそれの双方に適う目的
おいしいものを食べるとか(吉川)
ロングリーシュ(長い引き綱)型のロボット
人間は遺伝子につながった引き綱が長いから、ラカンを読んだりもできる(吉川)
アリは引き綱が短いので、プログラムされた通りに動く
引き綱の長さは行動が単純か複雑かとは関係がない
01:52:55 二重過程理論+進化学
(乗り物・遺伝子・乗り物&遺伝子)×(システム1・システム2)で6つパターンができる
システム1では遺伝子の利益優位
システム2では乗り物の利益優位
01:55:31 entaki「オタク的な消費はTASSのCなのか…」 スポーツ・芸術鑑賞、鉄道趣味などはある種動物的な快楽があるので、ここかなと(吉川)
子供の頃から好きな子と好きじゃない子が分かれていたりとか(國安)
01:57:58 sobahhi「さっきのアナバチの動作はどっちのシステムによるのだろう?」 アナバチの行動はシステム1ですね。システム2があったとしたら、失敗の可能性にも開ける(吉川)
種のどこかでシステム2が生まれたということですね(國安)
面白いのは、生物の冷気においてはシステム2らしきものが2,3回生まれているらしいこと(吉川)
システム2の遺伝子の利益は複雑。私が考えたのは、奴隷制とか(吉川)
システム2の乗り物の利益はコンドーム、避妊具(吉川)
避妊具を使うのは遺伝子としてはたまったものではない
02:04:19 entaki「紀元前3000年前から避妊具ってあるから、乗り物の利益ってすごい」 まちがいという入口からバイアスについて考えてきたが、認知科学と進化学をセットで考えると「何が正解なのか」という基準がすごいたくさんあることがわかる(吉川)
認知科学だと人間が記憶できるのは7つまでと言われますが…(國安)
マジックナンバー7ですね(吉川)
ここでは6つですが、それでも複雑なだと(國安)
多くの場合システム2の中の遺伝子の利益の領域が悪さをしている(吉川)
02:06:02 バイアス体験(4):4枚カード問題(改)
このバージョンでは80%の人が即答で正解できる(吉川)
論理的には前と同じ問題。アルファベットと数字をビールと年齢に変えただけ
裏切り者、フリーライダーを見つけることは大事なのでうまくできると進化学的には説明できる
合理性大論争
02:13:01 合理性、不合理性、深い合理性/経済学、行動経済学、進化心理学/エコノ、ヒューマン、エヴォル
深い合理性:論理学的に解こうとすると難しいが、人間関係に当てはめればたちどころに解ける
合理性:経済学の人間観(エコノ)
非合理性:行動経済学の人間観(ヒューマン)
深い合理性:進化倫理学の人間観(エヴォル)
非合理な人間ではなく合理的な動物
02:22:29 ノイズとは
これまでずっとバイアスの話をしてきたが、ノイズの話もしたい(吉川)
われわれのまちがいにはバイアスだけではなく、ノイズもある
ノイズのほうが重大な問題であることもめずらしくない。(…)いつも主役はバイアスである」
我々はバイアスが好きすぎるというバイアスがある(吉川)
バイアス:系統的な偏り
ノイズ:ランダムなばらつき
診断、審査などは人によって対応が変わる(ばらつき)
バイアスに還元できない誤り:CT、MRIの画像検査
02:28:46 ノイズの種類と対処
レベルノイズ、パターンノイズ、機会ノイズ
対処:ノイズを減らすためにアルゴリズムを用いる
02:32:04 「まちがい」(2):ミスマッチと非合理性
今回のセミナーはすごいアンバランスな構成になっていて、ここまでの80%が「まちがい(1)」で、ここからが「まちがい(2)」について(吉川)
正答/誤答でなく、成功/失敗、適切/不適切の観点も扱いたかったからだが、実は進化の観点でだいぶそっちが入っている
「まちがい」(2):失敗。しくじり。また、適切でないこと
ミスマッチ、非合理性
これまでがミクロだとしたらこちらはマクロ
「われわれは、石器時代からの感情と、中世からの社会システムと、神のごときテクノロジーをもつ」
しかも今神のごときテクノロジーがどんどん発展しているという…(國安)
「進化がわたしたちに与えてくれた能力に最も適した世界は現在のこの世界ではなく、実は大多数の人々にとってもはや存在しない世界(…)進化の遺産は現代世界と出会うことで、わたしたちを助けるのではなく著しい「目的不適合」をもたらしている」
我々が現在持っている身体や心のメカニズムがだいたい今のようになったのはサバンナに住んでたころ(吉川)
だから糖、塩、油に対する渇望を持っているが、我々は神のようなテクノロジーで安価に手に入る
とくに五反田はラーメン屋が多い!(吉川)
宿命論にひれ伏す必要はなくて、あすけんはあるし、システム2を使って乗り物の利益に資することをしていけばいい。しかし不適合性がなくなることはない(吉川) 啓蒙思想1.0:頭の中で考えた理想の人間像に従って革命した(フランス革命、共産主義)
このころはシステム2の乗り物の利益の部分しか考えてなかった(吉川)
啓蒙思想2.0:バイアスやノイズを考慮に入れた人間像による啓蒙
02:42:06 賢い人の愚かな行動:合理性障害
認知能力と合理性が乖離することがある:たとえば陰謀論者
02:44:13 まちがいとともに生きる
これまで見てきたように、まちがいについて正答/誤答、成功/失敗などいろいろな軸があるので、合理性という別の言葉で考えることを提案したい(吉川) それぞれの軸の目的、手段における合理性を考える
遺伝子の合理性、乗り物の合理性、集団の合理性、集団同士の合理性、規範的合理性(論理学や確率論)
合理性のダイバーシティですね(國安)
合理性は良くも悪くもない。不合理のほうがいいときもある(吉川)
02:47:59 複数の合理性(目的-手段連関)/合理性のマトリックス
中国ではアリババのアプリによる信用スコアのランクが高くないと、移動の自由すら制限される
道具的合理性の暴走
合理性自体を評価するメタ合理性が必要
我々は人生でメタ合理性を発揮している(吉川)
悩みを相談されたときにどう答えるか?
正解を言うか(システム2)
共感するか(システム1)
ケアというものが必要になってきたのは、各人にとって大切なものが多様化したからだ、という話をいている
個人だけでなく、合理性概念そのものについても同じようなことが言えるかもしれない(吉川)
対処法
ナッジ
リバタリアン・パターナリズム
メタ合理性
とうてい人に見せられない表ができそうですね!(吉川)
02:57:31 追伸(告知)
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02:59:52 質疑応答
03:00:13 質問者A:近代化というのは合理性を求めていくものだと思っていたが、アメリカのトランプ現象や日本の少子高齢化のような問題は近代化の必然なのかバグなのか。 遺伝子と乗り物をかけ合わせても6パターンしかない選択肢で語ること自体がまちがいを運命づけられていることを前提で答えると、システム2の乗り物の合理性が、遺伝子の合理性に復讐されている面はあると思う(吉川)
遺伝子の利益を考慮した民主社会を考えないといけない
マッチングアプリもアルゴリズムで合理的に構築されることで、遺伝子の利益に駆動された合理性が全面的になる面もある
できることはたくさんあるので、みなさんの今後に期待(吉川)
03:08:54 質問者B:お二人が生きてきた中でアルゴリズムとヒューリスティクスのどちらをどう選んできたか。
自分は努力しないとシステム2が働かないので、基本システム1で自動的に生きていて、システム2を使わないければいけないと思うときには切り替えて、半分くらいは失敗しているという感じ(吉川)
大学決めるときも当時はよく考えていたつもりだったけど、成績や親の仕事から選んでいて、案外動物的たったかもしれない(國安)
一方でシステム1に流されたほうが偶然性に出会えるという面がありそう
一方で長期的な生きやすさや幸せを考えると乗り物の合理性も考えなければいけないのが面倒なところ(吉川)
システム2は不安にさせてきますよね(國安)
自分は精神分析も許容するタイプだが、学問だと思ってない人もいる(吉川)
違うところもあって、経験科学である認知科学や進化心理学と、あくまで実践である精神分析には非対称性がある(吉川)
「ケア」に関してもそうで、 ケアの原理を立ち上げたらケアではなくなる
03:20:14 質問者D:自分はドーキンス的な功利主義に基づく合理性には違和感があり、現生人類の深いところに高い次元での知を把握する能力があり、むしろ合理性に囚われることでその高い次元に到達できないのだというモデルがしっくりくる。スティーヴン・ミズンのような認知考古学の領域についてどう考えるか。 中沢新一さんやスティーヴン・ミズンのような思考のモデルから考えると、今日の話は逆転しているように感じられるのは理解できる(吉川)
今支配的になっている認知科学は新参者なんだけどデファクトスタンダードになっているが、歴史的には全体が先にあるようなモデルのほうが多いかもしれない
自分自身は、 35歳くらいから、無味乾燥な実証のほうが魅力を感じるようになってきた(吉川)
03:28:16 質問者E:AIが入ってきたときに、今日の話はどのようになっていくのか、見通しを。
生成AIはけっこうなんでもできる。アルゴリズミックな思考もできるし、出力だけ見るとヒューリスティックな結果も出せるので、なにも変わらないとも言える(吉川)
夢としてはシステム3ができるといいなと(國安)
メタ合理性というやつですね(吉川)
建築の世界はコンピュータの登場によってまったく変わりました?(吉川)
それまで不可能だった建築ができるようになったことはあると思いますが、それで実際よくなったかというとどうかなと(国安)
ゲノム編集のほうが人間の世界を変える可能性はありますかね(国安)
ゲノム編集をAIがデザインすることはできるわけで、そういうのには可能性はありそうです(吉川)
「AIが好き」というのも我々のバイアスのような気もしますね(国安)
あります。常に過大評価していますね(吉川)
03:35:42 質問者F:二重仮定理論の図を見たときに、ヒュームの認識論に似ているなと思った。時代錯誤かもしれないが、ヒュームをはじめとした近世の認識論と認知科学の関連は。
あると思います。私のスライドのノートには「ヒュームによる認知バイアス論」という項目がある(吉川)
沢口俊之さんの出世作は当時(80年代)の神経科学をカントの理論から読み解くものだった
03:40:57 質問者G:映画「マトリックス」の、肉体を離れてマトリックスの中で生きていきたいというような人は目的構造(6パターンの分類)のなかのどの分類にはいるのか?
逆説めきますが、乗り物なくてもいい、というのが乗り物にしか思えないことなので、システム2+乗り物の利益のカテゴリーになる(吉川)
避妊具やコンドームのさらにエクストリームなバージョンと考えることができる
03:43:19 質問者H:UI(ユーザーインターフェイス)によって駆動されるようなことというのは、システム1で捕らえきれるのか
基本的にはUIを設計するときに人間のシステム1に合致するようにデザインするのだと思う(吉川)
UIはうまくいかないときに意識されるものですよね(國安)
この前下の天下一品に行ったらQRコード注文になっていて、しかもふつうに注文するときに「トッピングを注文しない」というのを選ばなければいけなくて…
ナッジに失敗してますね(吉川)
それで思い出したのはセブンイレブンでコーヒーを買うとき、プレミアムコーヒーの写真が貼ってあるの横に「ここではプレミアムコーヒーは淹れられません」と書いてあるマシンがあって、プレミアムコーヒーを買った友人が間違えていて憤った。バイアスを避けるなら絶対写真を載せないほうがいい。画像で否定はできないんだから(吉川)
03:50:05 フィナーレ
今日はできる限りたくさんの素材をお持ちしました。みなさんの考察をどこかで聞けるとうれしいです(吉川)
ヒュームの話がありましたが、認知科学と哲学も融合するかと思いきやすれ違うということがある。次回は歴史学という違う舞台でまちがいやすれ違いを考えられたらと思います(國安)
「まちがいと歴史」というカップリングは、もう間違いないんで。こんな面白いものはないです(吉川)
きれいなオチがついたところで、今日はありがとうございました!