オーミック加熱
#用語解説
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オーミック加熱(Ohmic Heating)は、核融合炉、特にトカマク型装置でプラズマを加熱するための基本的な手法の一つです。この手法は電気抵抗によって発生するジュール熱を利用してプラズマを加熱します。以下にその概要、手法、歴史を深掘りして解説します。
概要
オーミック加熱は、プラズマ中に誘導電流を流し、その電流によって発生する抵抗加熱を利用します。このプロセスは次のように機能します:
1. 誘導電流の生成:
トカマク装置では、トロイダル磁場(ドーナツ状の磁場)がプラズマを閉じ込めます。
一方で、ポロイダル磁場(プラズマの周りをループする磁場)は、トロイダルプラズマ電流によって生成されます。この電流は、トカマク中央のコイル(セントラルソレノイド)を使って誘導されます。
セントラルソレノイドに時間変化する電流を流すことで、プラズマ中に誘導起電力を発生させ、電流を流します。
2. 抵抗加熱:
プラズマは電気的には非常に高温で導電性が高いですが、有限の抵抗があります。この抵抗が電流によって熱を生み出します(ジュール熱)。
この熱がプラズマ温度を上昇させる役割を果たします。
手法
オーミック加熱の具体的なプロセスをさらに詳しく見ていきます。
#1. トカマク装置内での電流誘導
トカマク内の中央ソレノイドに直流電流を流すことで、プラズマ中に変化する磁場を生成します。これにより、ファラデーの電磁誘導の法則に従って誘導電流が生じます。この誘導電流は次のような役割を持ちます:
プラズマを安定的に閉じ込めるためのポロイダル磁場を生成。
電気抵抗を通じてプラズマを加熱。
#2. 抵抗率とプラズマ温度の関係
プラズマの電気抵抗率は温度に依存します。低温では抵抗率が高く、加熱効果が大きいですが、プラズマ温度が上昇すると抵抗率が急激に低下します。このため、オーミック加熱だけで核融合に必要な高温(数千万度)に到達することは困難です。
#3. 補助加熱との併用
オーミック加熱は初期段階でプラズマをイオン化し、ある程度の温度(数百〜千電子ボルト)に上昇させるのに有効です。しかし、それ以上の加熱には補助加熱(例:中性粒子ビーム加熱や高周波加熱)が必要です。
歴史
オーミック加熱は核融合研究の黎明期から使用されており、その進化は核融合装置の発展とともに進んできました。
#1. 初期のプラズマ研究
1950年代、初期のトカマク装置やZピンチ装置において、誘導電流を使ったオーミック加熱が実験的に試みられました。この時点では主にプラズマをイオン化し、閉じ込めの基礎を理解するための手段として用いられました。
#2.トカマク装置の発展
1960年代、ソ連で開発されたトカマク(特にT-3装置)でオーミック加熱が核融合研究の主流技術として使用されました。トカマクの円環構造は、効率的に誘導電流を流し、プラズマを安定的に加熱するのに適していました。
T-3装置の成功により、オーミック加熱がトカマク研究の標準的な手法となりました。
#3. 現代の役割
近年のトカマク装置(例:ITERやJT-60SA)では、オーミック加熱は依然として重要な初期加熱手法ですが、プラズマ温度の上昇に伴い抵抗加熱の効率が低下するため、補助加熱や自己加熱(アルファ粒子加熱)への移行が研究されています。
初期のプラズマ形成における重要性は依然として高く、プラズマ安定性や閉じ込め特性を研究する際の基礎手法として広く使われています。
課題と限界
1. 効率の低下:
プラズマ温度が高くなるほど電気抵抗が低下し、加熱効率が急激に低下するため、核融合炉の主加熱手段としては不十分です。
2. 誘導電流の時間制限:
オーミック加熱は誘導電流に依存するため、交流電流を用いたパルス運転が基本です。連続運転を目指すには補助的な手法が必要です。
オーミック加熱は、核融合炉の初期加熱手法として不可欠な役割を果たしてきました。その歴史と発展を通じて、多くの知見が得られ、現在の高性能な核融合装置へと繋がっています。しかし、補助加熱や自己加熱技術の発展と組み合わせることで、最終的な核融合炉の実現に向けたさらなる進化が求められています。