MHD不安定性
#用語解説
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MHD不安定性(磁気流体力学的不安定性)とは、核融合プラズマの中で磁場と流体運動が相互作用して生じる不安定な現象です。MHD不安定性が発生すると、プラズマの安定性が低下し、エネルギーや粒子が外部に逃げ出すなど、プラズマの閉じ込め性能が悪化します。これは、核融合反応を持続させるために必要な高温・高密度状態を維持する妨げとなるため、核融合装置において重要な課題です。
MHD不安定性の基本
MHDは磁気流体力学(MagnetoHydroDynamics)の略で、磁場と電気を帯びた流体(プラズマ)の力学を扱う分野です。プラズマは荷電粒子の集合体であり、流体としての性質と、磁場との相互作用を示します。このプラズマが磁場の影響を受けて運動する際、さまざまな不安定性が生じることがあります。MHD不安定性は、プラズマ内部の電流や圧力の不均一性、あるいは磁場の構造に起因する現象です。
MHD不安定性のメカニズム
MHD不安定性は、プラズマ内部の力学的バランスが崩れたときに発生します。核融合装置では、強い磁場を使ってプラズマを閉じ込め、エネルギー損失を抑えることが目標です。しかし、次のような状況が発生すると、プラズマが安定した状態を保てなくなり、不安定性が生じます。
1. 磁場のねじれ: 核融合装置内の磁場は、プラズマをトカマク型やステラレータ型の装置に閉じ込めるために、特定の構造を持っています。特にトカマク装置では、トロイダル磁場とポロイダル磁場の組み合わせにより、磁力線がねじれた構造になっています。このねじれが強すぎたり、プラズマ内部の電流が不安定になると、磁場のバランスが崩れ、プラズマが大きく動揺することがあります。
2. プラズマ圧力の不均一性: プラズマ内の圧力分布が不均一な場合、圧力が高い部分と低い部分の差によってプラズマが膨張したり、収縮したりする力が生じます。この力が一定の臨界値を超えると、不安定性が発生し、プラズマが崩壊する可能性があります。
3. 磁場のリコネクション: 磁力線が交差・再結合する現象で、磁場のエネルギーが急激に変化することで不安定性を引き起こします。これにより、プラズマ内のエネルギーが外部に放出され、プラズマが急激に冷却されることがあります。
MHD不安定性の種類
MHD不安定性にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる条件で発生します。主なMHD不安定性には次のようなものがあります。
1. ソーセージ不安定性:
円筒形のプラズマの形が、磁場の不安定によって「ソーセージ」状に膨れたり、収縮したりする現象です。この現象は、プラズマの内外の圧力バランスが崩れることで発生します。
2. キンク不安定性:
プラズマがねじれるように歪む不安定性です。磁場が強くねじれると、この不安定性が生じ、プラズマが曲がるように動き、結果として閉じ込めが破壊されることがあります。これは、トカマク装置のような強いトロイダル磁場の構造で特に問題となります。
3. リモード(Resistive Instabilities):
プラズマ内部での抵抗のために生じる不安定性です。プラズマ中の電流が磁場のねじれを強化する方向に作用し、ねじれすぎた磁場が不安定化する現象です。
4. 魚骨モード(Fishbone instability):
中性粒子ビーム加熱やアルファ粒子の加熱によって高エネルギー粒子が増加し、その影響でプラズマ中に現れる不安定性です。この不安定性により、プラズマの軌道損失が増えることがあります。
MHD不安定性の影響
MHD不安定性が発生すると、次のような悪影響が生じます:
1. エネルギー損失: 不安定性が発生すると、プラズマ内部のエネルギーが急速に外部に放出され、温度が低下します。これにより、核融合反応を維持するのに必要な高温状態を保てなくなります。
2. プラズマの収縮・崩壊: 不安定性が進行すると、プラズマ全体が収縮または崩壊し、磁場の閉じ込め構造が崩れることがあります。この現象は、トカマク装置における「ディスラプション」と呼ばれるプラズマ崩壊現象です。
3. 磁場との相互作用: 不安定性が磁場構造を乱し、プラズマ全体の安定性が低下します。これにより、軌道損失が増加し、粒子やエネルギーが装置の外に逃げてしまいます。
MHD不安定性の制御方法
MHD不安定性は核融合装置の運転に深刻な影響を与えるため、制御が必要です。一般的な制御方法には次のものがあります:
1. プラズマの形状と磁場の制御: プラズマの形状や磁場構造を最適化し、不安定性が発生しにくい条件を作ります。トカマクでは、内部インダクター制御や外部コイルの調整によって磁場を安定化させます。
2. 加熱の最適化: 中性粒子ビームやRF波を使った加熱の方法を調整し、不安定性を誘発する過剰なエネルギー供給を避けます。
3. アクティブ制御: プラズマの不安定性をリアルタイムで監視し、MHD不安定性が発生しそうな場合に、磁場やプラズマ電流を調整して抑制します。
まとめ
MHD不安定性は、プラズマの磁場と流体の相互作用によって発生する不安定現象であり、核融合プラズマの閉じ込めや安定性に大きな影響を与えます。プラズマの圧力や磁場の不均一性が原因となってさまざまな種類の不安定性が生じ、核融合反応の効率やプラズマの維持に問題を引き起こします。MHD不安定性の制御は、核融合装置の安定運転において非常に重要な課題です。