Bootstrap電流
#用語解説
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40.トカマクプラズマの電流分布の最適解は何か︖
プラズマ電流って、内部輸送障壁(Internal Transport Barrier, ITB)付近でよく流れるのかmasaharu.icon
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Bootstrap電流(ブートストラップ電流)は、磁気閉じ込め核融合装置(特にトカマク型装置)において、プラズマ内部の圧力勾配により自然に発生する電流を指します。この電流は外部からの駆動力を必要とせず、自己発生的に流れるため、核融合プラズマの効率的な運転において極めて重要です。
背景と歴史
1. 磁気閉じ込め装置における電流の必要性
トカマク型装置では、プラズマを閉じ込めるために磁気面(閉じた磁力線構造)を形成する必要があります。この磁気面を作るためには、プラズマ内部を流れる電流(主にトロイダル方向)が必要です。
初期のトカマクでは、このトロイダル電流を外部の電流駆動システム(誘導電流や高周波電流駆動)で生成していましたが、以下のような課題がありました
外部電流駆動のエネルギーコストが高い
長時間の運転が難しい
(外部駆動方式は主に誘導電流に依存しており、パルス的な運転しかできなかった)
2. Bootstrap電流の理論的予測(1970年代)
1970年代、プラズマ物理学の理論研究が進む中で、以下の現象が明らかになりました
トカマクのようなトロイダル装置では、磁場のトポロジー(曲率やシア)の影響で、プラズマ粒子が特殊な運動をします(例:捕捉粒子やバナナ軌道)。
この運動とプラズマ内部の圧力勾配(中心部と周辺部での温度や密度の差)が組み合わさると、外部から駆動しなくてもトロイダル電流が自然に発生することが理論的に示されました。
この自己発生する電流が、Bootstrap電流と呼ばれます。名前の由来は、外部の力を必要とせず自己駆動する様子が「自ら靴の紐を引き上げる(pull oneself up by one’s bootstraps)」ことに例えられたからです。
主な理論的貢献者には、プラズマ物理学者のHintonやHazeltineなどが含まれます。
3. 実験的確認(1980年代)
1980年代になると、トカマク実験装置(例:JET、TFTR)でBootstrap電流が実際に観測されるようになりました。
これにより、Bootstrap電流は単なる理論的概念ではなく、プラズマ閉じ込め性能を向上させる実用的な現象として注目を集めました。
Bootstrap電流の発生メカニズム
Bootstrap電流の発生は、プラズマ中の以下の性質に依存します
1. 圧力勾配
プラズマの中心部と周辺部で温度や密度に差があると、圧力勾配が生じます。
この勾配が粒子の分布関数に影響を与え、トロイダル方向に電流が流れる原因となります。
2. 捕捉粒子(Trapped Particles)
磁場の曲率やシアにより、プラズマ中の一部の粒子が磁気トラップされます。
捕捉粒子がバナナ軌道を描きながら運動することで、電流が生じます。
3. 自己強化効果
一度流れ始めたBootstrap電流は、圧力勾配や粒子運動を変化させ、さらにBootstrap電流を増幅する効果があります。
Bootstrap電流のメリットと役割
1. 外部電流駆動の削減
外部の電流駆動装置(誘導電流や高周波駆動)を部分的に置き換え、運転コストを削減できます。
2. ステディステート運転への貢献
Bootstrap電流は外部駆動を必要としないため、長時間の運転(定常運転)を実現するための鍵となります。
3. プラズマ安定性への影響
Bootstrap電流は、トカマクの高ベータ運転時に特定の不安定性(例:NTM、ネオクラシカル・テアリングモード)に影響を与えるため、その制御が重要です。
現在の研究と課題
1. ITERや次世代装置への応用
ITERのような次世代核融合装置では、高効率な運転のためにBootstrap電流が運転電流の大部分を占める設計になっています。
2. 制御技術の開発
Bootstrap電流が不安定性(NTMなど)を引き起こさないよう、制御方法(例:外部加熱や補助電流駆動)の研究が進められています。
3. 非線形効果の理解
圧力勾配や粒子運動がBootstrap電流に与える影響の詳細を、実験とシミュレーションの両面から解析する研究が進行中です。
まとめ
Bootstrap電流とは:外部駆動がなくてもプラズマ中の圧力勾配により自然に発生する自己駆動電流。
発見の意義:核融合装置の効率向上と定常運転実現に貢献。
歴史的背景:1970年代に理論が確立し、1980年代に実験的に確認され、現在も実用化に向けた研究が進んでいる。
Bootstrap電流の利用は、核融合エネルギー実現のための重要な技術であり、その理解と制御は今後の研究の中心的な課題の一つです。