的
「観念」、「概念」 等の厄介な言葉を使わないでも、大概な場合は 「考え」 というだけで済むことである。 しかるに多くの評論家は、 「知っている」で済むところを 「意識している」といい、「余り」 「差し引き」「さや」で済むところを 「剰余」といい、 万事がそういう行き方で、ことさらに漢字を多く使う。 就中最も眼につくのは「的」の字の乱用である。 あれはただ 「の」の字に書き換えて差し支えのない場合が非常に多い。 たとえば 「思想的背景」は「思想の背景」で、 「社会主義的文学」 は 「社会主義の文学」 で沢山である。 (現在の支那語における「的」の字は「の」の字ほどにしか使われていない。)陰翳礼讃 谷崎潤一郎 現代口語文の欠点について81ページ