檄を飛ばす
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村上春樹の「檄を飛ばす」の誤用が気になった。
つくるは彼がラグビーの試合前に円陣を組んで、仲間の選手たちに檄を飛ばしていた光景を今でもよく覚えている。
彼は叫んだ。「いいか、 これからおれたちは勝つ。おれたちにとっての問題はどのようにして勝つか、どれくらい勝つかだ。 負けるという選択肢はおれたちにない。 いいか、負けるという選択肢は、 おれたちにはない!」
「檄(げき)」は「檄文」とほぼ同義で、もともとは「召文(めしぶみ)」や「触文(ふれぶみ)」などの文書を指します。「檄」について国語辞書は「①古代中国で、招集または説諭のための文書。木札を用いたという。めしぶみ。さとしぶみ。②相手の悪い点をあばき、自分のすぐれている点を述べて、世人に同意を求める文書。現代では特に、一般大衆に自分の主張や考えを強く訴える文章。檄文。ふれぶみ」と2つの意味を示しています。そのうえで、この語を使った「げきを飛(と)ばす」について「人々を急いで呼び集める。また自分の主張や考えを、広く人々に知らせて同意を求める」(『日本国語大辞典 第2版』小学館)と記しています。
このように本来「檄(げき)」とは文書のことで、「檄を飛ばす」のは(文書で)人々を呼び集めたり同意を促したりすることです。「檄」は人々に対して肉声・口頭で伝えるものではなく、また「檄を飛ばす」には「激励する」「励ます」という意味も含まれていません。
NHK放送文化研究所が「檄(げき)を飛ばす」の意味について、平成12年(2000年)11月に全国の満20歳以上の男女2,000人を対象に調査したことがあります。それによりますと「長嶋監督は選手を集めて檄(げき)を飛ばしました」という文例について、「おかしい」と答えた人は全体の1割にも満たず(8%)、これに対し9割近く(86%)の人たちが「おかしくない」と答えていました。この結果から、「檄(げき)を飛ばす」が本来の意味や使い方とは違う形でかなり広がっていることがうかがえ、現に監督やコーチが選手を「しった激励」する場合などに用いられているのはご指摘のとおりです。しかし、先に引いた辞書は「檄を飛ばす」の記述の中で「誤って、がんばるよう激励するように用いられることもある」と付記しているほか、「俗に激励の意で用いるのは全くの誤り」(下線は筆者)と明記している辞書もあります。