文章を読んでも意味は理解できない
しかし、実物のヘリコプタがどうやって姿勢を制御しているのか知りたくなった。 百科事典などを調べたくらいでは詳しいことはわからない。もちろん、質問できる大人にはきいて回った。 学校の先生も知らなかった。この疑問も、解決してくれたのはやはり本だった。 図書館でヘリコプタに関する本を何冊も読んだのだ。 図面で示されていたが、最初はまったく理解できなかった。 その機構がどう動くのかわからない。 文章を何度も読み、 図面と照らし合わせ考える。 何時間もじっと図を見続けていることがあった。 そして、 あるとき、ついに機構がわかったのだ。 わかってみると、 今まで何度も読んだ文章が、 初めて意味を持つことになる。 「わかる」という意味はこういうことなのだ、という経験をした。これは、 その後も、 僕の人生に何度か訪れる「好機」といえるものとほぼ一致しているだろう。 つまり、文章を読んでも、 本当の意味は理解できない。むしろその逆だといえる。 意味が理解できたとき、 初めて文章が読めたことになるのだ。読書の価値 / 森博嗣 21ページ