合理的配慮
言葉を換えると、「合理的配慮」とは、「社会的な障壁が存在するために障害を負うことになっている人が当然に享受するはずであった権利を回復するための措置」であるということになります。「配慮」という言葉が使われているために、思いやりや支援と同じものとして考えられやすいのですが、英語ではreasonable accommodationと言い、accommodationには調整という訳がふさわしいと言われています。 飯野: 企業に研修を提供していて、 ずっと何年も「どうしてそういう発想になるのかな」 と不思議に思っていることがあります。それは、一人の障害者に 「合理的配慮」を提供したら、 「よい評判が広まって、 企業価値が高まり、たくさん客が来る」 という発想よりは、 「もっと重い障害をもった大変な人たちが合理的配慮目的だけでやって来て、いろいろしなきゃいけなくなって大変だ」という発想のほうが強い、ということです。清水晶子,ハン・トンヒョン,飯野由里子. ポリティカル・コレクトネスからどこへ 69ページ ──令和6年4月から障害者差別解消法が改正され、合理的配慮の提供が民間事業者にも義務化されましたが、日本の「障害者差別解消法」に対して思うところがあれば、お聞かせください
「作家としてここは『言葉』について語ります。『合理的配慮』という訳はほとんど誤訳と言ってよく、今からでも『合理的調整』とするべきだと考えています。例えば『rights』は『権利』ではなく『権理(権理通義)』(by福沢諭吉)と訳すべきだった、つまり『利』という字のネガティブな印象のせいで人権を理解できない国民になってしまったという話もあるように、こうした言葉の誤選択は国民の精神性に悪影響を及ぼし尾を引いたりするので、私は意地でも『合理的調整』と書いていこうと思います」(市川沙央のインタビュー)