Romanticが止まらない
https://youtu.be/CACS_j8Ud2Y?si=J3f2fwyyHQ2yahzY
C-C-Bの大ヒット作にして松本隆の代表作。松本の詩作の素晴らしさが思う存分発揮された超名曲だろう。
https://gyazo.com/bfe99a8d51cc2c5b4abc00fc6fb5d6d5
冒頭からすごい。「長いキスの途中で」。歌の始まりに「歌以前から長く続く行為」が読み込まれてるため、歌が始まる前から歌(世界)が始まっている。このフレーズがあるのとないのとでは時空間の広がりが大違いだ。3分間のポップスの世界とは「そういうこと」なのである。
そしてそんな長いキスよりも「首飾りを外し」たことにフォーカスするデリカシー。上品な性描写かくあるべしだ。長いキスという継続行為は刺激的なようでいて、実は「継続している」、つまりある意味安定していて進展のない状況だったりする。停止や無風にこそ動き、ダイナミズムが込められるのが歌謡曲の美学である(ある種の和歌とも共通する。来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ参照)。「長いキスの途中で」「首飾りを外した」。UndoにこそDoがあるのだ。
松本隆の歌詞カメラはまず「長いキス」を、つまり口を描写する。次に視点は首飾り、首へと移行し、そして「その間」をすべて飛ばして「ハイヒール」、足へと下る。この上から下への視点移動が素晴らしい。「その間」(in between)は想像にお任せだ。徹底して「描かない」ことで描くのもこれまた歌謡曲の美学。体については触れられず、ただ装身具でその輪郭が描写される。
身体が描写されないのは「君」とキスしている語り手の視点の一人称描写になっているからでもある。野暮な解説を、解説だからあえてするが、近すぎたら一人称視点からは見えなくなるのが相手の体である。だから語り手から見えるのは、体から離れた(そうでないとも解釈できるがここではそう仮定する)ハイヒールなのである。
そして、このハイヒールにだけ「青い」という色彩形容が入る。それまでこの曲で描かれた世界になかった鮮やかさが足されるわけだが、「友達の領域からはみ出した君の青い」まで、なんと8小節全部使って「ハイヒール」というたった一つの名詞を形容。だからこのハイヒールという体現止めで終わるブリッジは強烈なインパクトを残す。「はずした」「はみ出した」「ハイヒール」と「ハ」で頭韻まで踏んでダメ押しだ。
サビは「誰かRomantic」「止めてRomantic」って「知らんがな」の世界なのだが(笑)、「止めて」というのは「止めないで」という意味だろう。そして「せつなさは止まらない」でお望み通りサビが止まる、「止まらない状態で止まる」とは「ずっとクライマックスのまま」ということだ。Aの状態とBの状態、その「あわい」を描写するのも歌謡曲の伝統だろう。(西田佐知子の涙のかわくまで参照)
松本隆は英語の使い方も上手い。英語圏ポップスの本歌取りのようなパターンが多い気がする。たとえばここでのhold me tightとかtonightってこの二つで誰だってThe BeatlesのHold Me Tightを思い浮かべるだろう。赤いスイートピーのI will follow youもそう。歌謡曲の世界と英米ポップスを自然につなげるための英語使用なのだ。