「歌詞のサウンドテクスチャー」より実践的な内容要約
※ 一度google documentにまとめたものを転記したので、scrapbox的でない形式になっています、すみません。適宜勝手に編集していただいてもかまいません。
概要
木石岳『歌詞のサウンドテクスチャー うたをめぐる音声詞学論考』から、実作に役立ちそうなところを要約してまとめてみます。
https://www.hakusuisha.co.jp//images/book/624988.jpg
※ 書籍に忠実な要約ではなく、tancematrix.iconが通読してアイデアをまとめたものになっています。
本書の内容は、大雑把に言えば歌詞から「意味」を捨象して、どのような音で歌われるかという点から考えて(分析して)みよう、というものです。
雰囲気としては、音楽理論のような感じで歌詞の音選び(言葉選び)を分析できるようにしてくれていると思います。
モーラと音節とアクセント
用語
モーラ? → 俳句などで575と数えるときの音の単位。例:「チューリップ」は「ちゅ/う/り/っ/ぷ」で5モーラ。 音節? → (正確には違うけど実用上は)一拍に乗せられる最長の音。基本的に一つの母音を含む。日本語だとモーラとおおよそ一致する。英語だとstrup, food, trainなどはいずれも1音節。トレインの「レイ」みたいな感じで複合的な母音になる場合も1音節として数える。
アクセント? → 日本語(標準語)は音の高さ(正確にはピッチが下がる場所)でアクセントが決まる。「東京都」は「低高高低低」。アクセントが違うと、同音異義語でも弁別(判別)がつく。例:カエル→低高高、帰る→高低低 音符への詞の振り方(モーラvs音節)
1音符に1モーラと考えがちだが、複数のモーラが1音節化する(1つの音符に対応する)場合もある
https://gyazo.com/bc93d02956379788e2c0ae86aa534da4
大雑把に言えば、モーラ的な譜割は民謡的、垢抜けない、ストレートな雰囲気で音節的な譜割は洋楽的、洗練、スタイリッシュな雰囲気がある、が無論メロディや歌詞内容との兼ね合いもあるので一概には言えない。
Aメロはモーラ的に一音一音を独立した音符に割り当てつつ、サビで音節的な譜割をすることで雰囲気を切り替える、などのアプローチを取ることができる。
音節化しやすい(1拍に入る)パターンの例:
母音の連続
ai, ouなど
「ん」
缶、瓶など
母音の無声化
「たくさん」→「tak(u) san no」で3音符になる など
i,uがとくに無声化しやすい
(個人的な意見としては、無声化したとて音符は二つ打ち込むし、1音節になったと言えるのかは微妙な気もする。けど聞こえ方としては1音節に近いのは確かだとも思う)
メロディとアクセントの一致
「アクセントが上がるところでメロディが下がる、もしくはアクセントが下がるところでメロディが上がるのは避けたほうがいい」というのが教科書的な話だが、別にそうでなくていい。
とくに、音節的な譜割をする場合はあまり気にする必要がない場合がある。(音が上がる箇所、下がる箇所が1音節になってしまってメロディで考慮することがなくなるから)
https://gyazo.com/e23394c39de078a96264c870041ff220
気をつけるべきこと
同音異義語でアクセントが違う単語の場合、アクセントとメロディを一致させた方が聞きちがいが起こりにくい
逆に、アクセントを一致させないことで別の単語に聞こえさせるというテクニックもある
あまり神経質にならなくていいが、全体を通してアクセントに忠実なのに、一箇所だけ不一致、みたいなことがあると目立っちゃうかも。全体として(あるいは部分として)の雰囲気には注意を払う
アクセントに忠実な例:イガク「カオが鈍器になっちゃうヨ」
アクセントと一致しない例:「嘘が動機になったんだ」
ソノリティ(聞こえ)
言語学的な概念だけど、多分倍音がどのくらい含まれてるかとおおよそ一致するっぽい。
https://gyazo.com/617c217a33dcce5da8dd1a22c25d8201
(p96より)
1がソノリティが低く、9がソノリティが高い。(記号について雑な補足:sの縦長になったやつはsh, ひらがなの「ろ」みたいなやつはジャジュジョ、jはヤユヨ)
ソノリティが高い音(典型的には母音)の方が声として大きく聞こえ、ソノリティが低い音の方が打楽器的に聞こえる。
これによって、歌詞の全体や一部を見たときにソノリティの高低で分析することができる。
たとえば、Aメロはソノリティが低く≒子音が多く≒パーカッシブな感じで、サビはソノリティが高い≒母音が多く≒力強い感じ、みたいな。
(個人的には、閉鎖音をメロディのどこに配置するかってことも結構重要だと思うんだけど、そのことは本では触れられていませんでした。
例:ヘイズ「撃ち抜いて、どうか!」の「ど」がサビ冒頭のシンコペートしたアクセントと一致していることとか)
音象徴
発話における音が、音以外のイメージを共起する現象。「あ」は「い」より大きい感じがする。「お」や「う」は重い感じがする、など。
また、濁音(ゴロゴロ)は清音(コロコロ)に比べて激しい/大きいなど。
詳しく書くとキリがないので、詳細については割愛
音象徴を利用してある程度の規則性を持って配置することで、曲のイメージの展開に役立てることができる。
たとえばBメロで「お」「う」などの重い母音を多く使い、サビで「あ」「い」などの軽い母音を多く使うことで「窮屈→解放」のような(無意識的な)展開を作ることができる。
筆者はこのような無意識的なメッセージのようなものを「音響サブリミナル」と名付けている。
例:ライアーダンサー
ライアー ライアー ダンサー →「あ」が優勢→軽く広い感じ
素直で傷ついたあの日を →「う」「お」が優勢→狭く重い感じ
上記では母音の話を例に出したが、マ行が多い/サ行が多いなどの子音の対立や、濁音/清音などの対立もありうる。
作詞するときには作詞者も無意識のうちにやっていることが多そうだけど、意識的にできると役に立つこともあるかも。
意味を破壊した歌詞について
以下の4段階に分類している
オノマトペを多用して、あまり意味が前面に出てこない 意味のある言葉だがあまり意味に意識が向かない
音の構成などが言語に似ているが、既知の単語などは使用していない
一龠の「崔仙崎岩硬〜」のあたりはこれかも
言語でない
日本語っぽい・英語っぽいみたいな特徴をそもそも破壊したもの。そんなことする必要ある? ボーカルチョップを歌詞と捉えるならここに入るのかも
まとめ(感想)
ざっくり言えば、以下のようなロジックが多く出てきた;
<xxに着目して音声を分類/分析できます→部分ごとにその特徴の有や程度に差があれば、一種の展開として利用できます>
これって、たとえば「AメロはCメジャーキー→BメロはAマイナーキー」とか「Aメロはペンタトニックのメロディ→Bメロで移動ドでのファが特徴的に使われる」みたいな音楽理論的テクニックとかなり似た構造なので、歌詞についても似た感覚で操作できる場合があるとすれば役に立ちそう。
ただ、この方法ってモードっぽいというか、「Aメロ」「Bメロ」みたいな構造に対しての話で、もっと小節レベルとか拍レベルで歌詞をかんがえるということもできると思う。
あとは、「一つの歌詞に対して歌い方は無数にあって、たとえば無声化するとか有気化するとか色んなことを歌手が選択してるよね」みたいな話があって、それはボカロにおいては調声としてみんな意識的にやっていることで、ちょっと面白いなと思いました。