薬剤性心筋障害
【問診】
70歳の男性.
現病歴:4年前に縦隔腫瘍に対し摘出手術が施行され,病理検査で軟部肉腫と診断された.
内服薬:2年前に肺転移に対して2ヵ月間アドリアマイシンが投与(→心毒性の強い薬剤
その後病変の増大はない.
1ヵ月前から倦怠感があり,数日前から労作時の息切れを自覚するようになった.
ここ3ヵ月で3kgの体重増加がある.(→うっ血性心不全
既往歴:45歳から高血圧症で内服加療.
生活歴:喫煙は20歳から33歳まで20本/日.飲酒は機会飲酒.
家族歴:母親は肺癌で死亡.
【身体所見】
現症:意識は清明.身長172cm,体重63kg.体温36.5℃.脈拍80/分,整.血圧164/78mmHg.呼吸数18/分.眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない.頸静脈の怒脹を認めない.胸骨正中切開の手術瘢痕を認める.
Ⅲ音を聴取し,心雑音を認めない.(→うっ血性心不全
呼吸音に異常を認めない.腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない.四肢末梢に冷感を認めない.両側下腿に浮腫を認める.
【検査】
検査所見:血液所見:赤血球399万,Hb 11.6g/dL,Ht 38%,白血球4,000,血小板16万.血液生化学所見:総蛋白6.2g/dL,アルブミン3.6g/dL,AST 62U/L,ALT 81U/L,LD 251U/L(基準176〜353),尿素窒素14mg/dL,クレアチニン0.6mg/dL,血糖97mg/dL,Na 142mEq/L,K 4.4mEq/L,Cl 108mEq/L,
脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉696pg/mL(基準18.4以下)(→心不全
心筋トロポニンT 0.14(基準0.01以下),CK-MB 5U/L(基準20以下).CRP 0.3mg/dL.動脈血ガス分析(room air):pH 7.4,PaCO2 38Torr,PaO2 83Torr,HCO3- 24mEq/L.
胸部X線写真で心胸郭比は3ヵ月前に53%,受診時58%.心電図で高電位とV5,V6の軽度ST低下を認める.
1年前の心エコー検査は正常である.
今回の来院時の心エコー検査で左室はびまん性に壁運動が低下しており,左室駆出率は35%.(→左室収縮性は高度に低下
【治療】
ループ利尿薬:うっ血・浮腫の強い心不全に最初に投与すべき薬剤 β遮断薬:左室の収縮性(駆出率)が低下した心不全に対し予後改善のエビデンスがある.ただし,利尿薬によって十分にうっ血・浮腫を改善した後に投与 ACE阻害薬:左室の収縮性(駆出率)が低下した心不全に対し予後改善のエビデンスがある.副作用としての低血圧に注意が必要である. <心不全の薬物治療を続けるうえで継続的に評価>
体重:左室の収縮性(駆出率)が低下した心不全において,体重が増加することは心不全が悪化していることを示唆
心拍数:β遮断薬を投与する際には,高度徐脈に注意を払う
左室駆出率:改善→治療薬が奏効していること示唆.悪化→予後不良
脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP):心不全の病勢を正確に反映する.BNPが低下して→薬物治療が有効,上昇→効果は乏しいことを示す.左室駆出率よりも鋭敏に病態を反映