全体小説
フランスの作家・哲学者 J.-P.サルトルが主張した小説の方法論。彼の『自由への道』はその実験的作品。人間を,それを取り巻く現実とともに総合的・全体的に表現しようという試みである。日本では,野間宏がこれを独自に発展させ,「全体」とは社会的・生理的・心理的なものの一元的統一を目指すものとして立ち現れ,そこでこそ作中人物の自由と作者の想像力のぶつかり合いが問題になるのだとした。野間の長編小説『青年の環』はその論の実作化であるという。一方,小説とは何をどう書いてもよいもの,という考え方もあり,この力業を継承しようとする若手を見いだすのは難しい。