シェリー・レヴィーンについて
『After Walker Evans』は、ウォーカー・エバンスという写真家のカタログを撮影し、そのまま何の手を加えることもなく発表した作品です。ウォーカー・エバンスのオリジナルの写真と、レヴィーンの複写作品は、何の違いも感じられません。もちろんウォーカー・エバンス遺産財団は著作権侵害として、レヴィーンの作品の販売を差し止めました。 レヴィーンはここでオリジナル/コピーという関係を脱構築し、オリジナリティというものを突き崩しにかかります。 実はレヴィーンの行為というのは特別なことではなく、現代社会では自然と行われていることです。対象を撮影し複製する。その複製された写真(雑誌やWebなどで掲載される)をコピーしたりすることはみなさんもよくやるでしょう。そのような複製を繰り返す複製の過程ーー何がオリジナルか判然としない、イメージの亡霊の複合体ーーつまり写真史というものをレヴィーンは表現しています。
ただ、レヴィーンとプリンスの違いとして、レヴィーンが女性であるということがひとつ挙げられます。
過去、美術史と同じように、写真史というものも男性写真家によって独占され、秩序化されてきました。
その歴史から排除されてきた女性写真家であるレヴィーンが、男性写真家の象徴であるウォーカー・エバンスの写真を複製するという行為は、男性写真家によって秩序化した写真史から自由にイメージを盗用し、別に文脈にリメイクしていく、そのような挑戦と受け止められます。
エバンスが占有していたイメージの権利を、"外部から”レヴィーンが盗み、再占有する
これは男性中心社会において抑圧されてきた女性がその秩序を揺るがし、新しくリモデルさせていくような行為であるといえます。