メルロ=ポンティの「肉」とベケットの「泥」
袋 いいぞ 泥の色 泥の中 すぐに言うこと それは袋 周囲と同じ色 彼はその色と合体し ずっとそのまま それはあれかこれか 他のものはいらない他のものと言ってもそれは一体何か いくらでもある 袋 [sac]と言うこと 古びた単語 最初に閃く 最後に音節c 他のものはいらない みんな消えてしまうだろう 袋一つ これでよし 言葉 物 それは可能な物に属する ほんのちょっとしか可能ではない世界の中で そう 世界 それ以上に何を望めようか 可能なこと 可能なことを見る それを見る それを名づける それを名づける それを見る もういい 休憩 また戻ってくるさ 仕方ない ある日 世界の肉、これは(時間、空間、運動)に関して分凝、次元性、連続、潜在、蚕食として記述される。――次いで、問題になっている諸現象にもう一度問いかけること:それらの現象はわれわれを知覚するものと知覚されるものとのあいだの Einfühlung〔自己移入の関係〕へ差し向ける、なぜならそれらの現象が言わんとしているのは、われわれがすでに、このように記述された存在のうちに存在してうるということ、われわれがそれに拠って存在している(en être)ということ、存在とわれわれとのあいだに Einfühlung 〔自己移入〕が存するということだからである。 これが言わんとしているのは、私の身体が世界(それも一個の知覚されたものである)と同じ肉でできているということ、そして、さらに私の身体のこの肉が世界によって分かちたもたれており、世界はそれを反映し、世界がそれを蚕食し、それが世界を蚕食している(感じられるものが主観性の極点であると同時に物質性の極点でもある)ということ、それら両者が越境とまたぎ越しの関係にあるということ、である。……
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おれは言葉のなかにいる、言葉でできている、他人の言葉で、どんな他人だろう、場所もそうだ、空気もそうだ、壁も、地べたも、天井も、言葉言葉、全宇宙がここにある、おれといっしょにある、おれは空気だ、壁だ、壁に閉じこめられた者だ、すべてがたわみ、開き、漂い、逆巻き、ちりぢりになって、そのちりぢりなもの全部がおれだ、行き違い、ひとつになり、離れる、どこへ行ってもおれは自分に出会い、自分を捨て、自分に近づき、自分から遠ざかる、おれしかない、おれのかけらしかない、拾われたり、失われたり、不足したり、言葉言葉、これらの言葉全部がおれだ、こうした見慣れないもの全部がおれだ、埃のように舞っている言葉、地べたがないから地に休むこともできず、空がないから空に消えることもできず、互いに出会うたびに、互いに離れるたびに、こう言うんだ、それらすべてがおれだ、ひとつになるもの、別れるもの、けっしてめぐり合わないもの、そのすべてがおれだ、ほかのものじゃない、いや、まったくほかのものだ、おれはまったく別のもの、押し黙っているものだ、……