人力パワー
ブログやSNSの炎上を見るにつけ「この元気な力を発電か何かに使えないか?」と思うことがよくあります。現存の技術では炎上パワーを発電に使うのは難しいでしょうが、人力パワーを有効活用する方法はいろいろ考えられます。インターネットで全世界のコンピュータが接続されたことによって無限の計算パワーが利用できるようになったのは間違いありませんが、ネットによって接続された全人類の力も同時に利用できるようになったことはそれ以上に革命的なことかもしれません。機械でもできることに人力パワーを使うのは勿体ないので、人間にしかできないことに人力パワーを使うのが良いでしょう。 パターン認識や自然言語処理のように、機械よりも人間の方が得意な仕事は沢山ありますし、創造的活動はまだまだコンピュータにはできません。書評を書いたりレストランの評判を投稿したりすることは永遠にコンピュータには無理でしょう。このような人間の情報処理能力をネットを使って有効利用する様々な手法が最近増えています。例えば、人間には読めるけれどもコンピュータには読むのが難しいような文字画像を使って人間かどうかを判別するCAPTCHAというシステムが最近広く使われるようになってきました。下のような画像の文字を人間は簡単に読むことができますが、コンピュータで認識することは難しいので、読めた人間にだけ投稿を許すことによって、自動的なspam投稿の拒否などに利用されています。 http://gyazo.com/bad7a3866f348f78d4d69464df080c9f.png
CAPTCHAの例
CAPTCHAは人力パワーの消極的な応用といえるでしょうが、人力パワーを積極的に使うreCAPTCHAというシステムも提案されています。コンピュータでうまく文字認識できなかった画像を人間に読ませたいとき、その画像およびコンピュータが生成したCAPTCHA画像のふたつを認証システムのユーザに提示して両方の文字列を入力させます。下図の例では、コンピュータが生成した歪み文字列が左に/コンピュータが認識に失敗した文字列が右に表示されています。左側のCAPTCHA画像を読むことができたユーザならば、右側の画像もちゃんと読める可能性が高いですから、人力パワーで画像認識をさせることに成功したことになります。認証作業1回につき1単語しか人力認識できませんが、世界中の人間がこの作業を行なえばかなりの効率になるはずです。 http://gyazo.com/678cbb612133a16853db95db5d5e5497.png
reCAPTCHAの例
コンピュータは書評を書いたりレストランの評判を投稿することはできませんが、そのような結果をまとめて計算することは得意ですから、他人の評価をもとにして自分が欲しい情報を取得する協調フィルタリングシステムが広く使われるようになってきました。例えばAmazon.comで本を検索すると「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という情報が表示されます。これはAmazon.comで本を買った人の購入行動(人力パワー)をうまく情報として利用していることになります。 私が運営している本棚.orgというサイトではユーザが自分の作った「本棚」に自由に本を登録することができるようになっており、登録情報を利用した「本棚演算によって本や本棚の関係を計算することができます。 http://gyazo.com/42518f234f71cda68f709c96640e1fa0.png
本棚演算
本を買ったりリンクを貼ったりするといった単純なユーザ行動を沢山集めるだけで重要な情報が出現するわけですから、もっと広範な人間の行動データを集めることができれば応用はさらに広がるはずです。あらゆる行動が自動的に収集されて解析されるのは誰でも嫌ですが(c.f. ライフログの効用)、明示的に発信した情報が共有されて有効活用されるのであれば大丈夫でしょう。写真や動画にタグをつけたりソーシャルブックマークを利用したりする積極的な行為や「炎上」「祭り」でさえもじゃんじゃん人力パワーとして利用したいものです。 Googleが採用しているページランクアルゴリズム(Webページのリンク関係をもとにページの重要度を見積もるアルゴリズム)は、他ページを評価するという人力パワーが最も有効に利用されている例かもしれません。書籍やWebページの中身を解析するだけでなく、人力による付帯情報を重視すると効果的な検索ができるという事実は人力パワーの有効性の証明になっているといえるでしょう。 Googleが発見したような人力パワーの隠れた応用はまだまだ有るに違いありません。例えば何かのシステムのテストを行ないたい場合、それをWebで公開して多数の人間に使ってもらうことにより、大量のテストを効率的に実行することができます。変な英語を見ると直したくなるお節介なアメリカ人もいるかもしれませんから、こういう人間の衝動を利用した英文自動校正システムができる可能性があります。 作りかけのプログラムやアイデアを置いておくと自動的に完成するシステムすらできるかもしれません。そんな都合の良い話は一見ありそうに思えませんが、間違いが書かれたWikiページは「こびとさん」が勝手に直してくれるものだと言われていますし、実際Wikipediaでは頻繁に間違いが訂正され続けています。最近はGitHubがあなどれないことがよくわかります。全人類を巻き込んだ人力計算力はまだまだ未知数です。これまで考えられかったような人力パワーの利用法に期待したいと思います。足りなくなれば犬力パワーとかも...