英米法2022
第1回 英米法と大陸法
英米法         大陸法
Common Law       Civil Law
Anglo-American Law    Continental Law
判例法主義      制定法(法典)主義
イギリス・・・民法典も、刑法典も、憲法典もない!
murder(謀殺罪)・・・計画的な殺人・・・判例法(コモンロー上の犯罪)
飲酒運転、インターネット上の詐欺・・・特別法
イギリスには憲法がありますか?・・・「憲法はあるが、憲法典はない。」
イギリスでは、どういう形で憲法が存在していますか?・・・不文法/「憲法慣習」
https://www.bl.uk/magna-carta/articles/britains-unwritten-constitution
判例法=第1次的法源
議会制定法(Statutes)=第2次的法源・・・議会制定法は、判例法を①変更、②補充、③法典化する。
アメリカ・・・憲法典+刑法典・・・連邦と50州すべてにある。民法典・・・原則としてない。例外:ルイジアナ州、カリフォルニア州
行政法はあるが、大陸法とはルーツ、考え方が大きく異なる。
大陸法・・・官僚制、行政学、行政部・公務員の仕事のしやすさ・・・例:行政行為の公定力
英米法・・・適正手続(due process of law)・・・刑事手続の延長
第2回 コモン・ローの成立
コモン・ローは、いつ、どのようにしてできたのか?
・ノルマン制服(Norman Conquest) (1066年)
Bayeaux Tapestry
👉 https://www.bayeuxmuseum.com/en/the-bayeux-tapestry/
👉 https://www.youtube.com/watch?v=LtGoBZ4D4_E
・ウィリアム1世(征服王)による、王権の強い封建制度・・・直接受封者(貴族)だけでなく、間接受封者(騎士)も国王に対して忠誠義務を負う。
A: 👑
□↓↑忠誠
B1: 貴族  ⚔  B2
□↓↑忠誠
C1: 騎士  ⚔  C2   C3  ⚔ C4
●国王の裁判官による 巡回(じゅんかい)裁判
地方の慣習法 → 「王国の一般的慣習(general custom of the realm)」
多数・合理的
判例法
「共通の法」(common law) ←ヘンリー2世の時代(12世紀): "Glanvill", Tractatus de legibus et consuetudinibus regni Anglie(裁判官のためのマニュアル)
第3回 コモン・ローの特徴と限界
コモン・ローの裁判の方法
(1) 神判(ordeal)・・・熱鉄神判、水神判
(2) 決闘裁判(trial by battle) ∵①「神様が、正しい方を勝たせてくれる。」、②自分の大切なもの(土地、名誉、新妻)を守るために命を懸ける(=「一所懸命」)。 決闘(duel)の習慣は、ヨーロッパやアメリカで19世紀ごろまで残っていた。
👉 ウィリアム1世の法 6.・・・決闘裁判は、ノルマン人がイングランドに持ち込んだ習慣であった。
👉 決闘裁判の記録(13世紀~19世紀前半)
(3) 雪冤(せつえん)宣誓(せんせい)(wager of law / compugation)・・・「宣誓合戦」
(4) 陪審裁判(jury trial)
👉 陪審裁判の記録 (13世紀)
大陸法?
神判の代わりに、厳格な証拠法によって、裁判を行おうとした。
ある人を有罪にするためには、「2人の証人の証言」または「本人の自白」が必要である。
証人が1人しかいない場合? → 「半分の証拠(half proof)」→本人の自白を得るために、裁判が拷問になってしまった。
訴訟方式(Forms of Action)
・特定の事実の型に対して、特定の令状(writ)が大法官府(Chancery)から発給され、当事者はその令状を持って裁判所に行った。
・令状の種類には限界があった。
writ of trespass(不法侵害)・・・他人の身体または財産を、直接かつ物理的に侵害した。
writ of case(場合侵害訴訟)・・・間接的な場合などを含める。
コモン・ロー裁判所
・国王の下に重要な貴族、聖職者が集まり、Curia Regis(王会)という機関を構成し、立法・行政・司法の三権を行使していた。
・地方の巡回裁判とは別に、中央において、次の3つの裁判所が成立した(12~13c.)。
①Court of Common Pleas(民訴裁判所)・・・土地の自由保有権(freehold)に関する訴訟 
②Court of Exchequer(財務裁判所)・・・自分は国王に対する債務を負っていない
③Court of King's Bench(王座裁判所)・・・刑事事件と不法行為
👉 コモン・ロー裁判所 ・・・ 1450年ごろの法廷を描いた絵
第4回 エクイティー(Equity)
14世紀におけるコモン・ローの限界
コモン・ロー裁判所で、裁判を行うことができない場合
∵①貴族・領主による妨害・圧力 → 国王が介入
②コモン・ロー上、その種類の事件についてふさわしい令状がない → 国王に直訴 → 大法官(Lord Chancellor)に事件を付託
大法官は、「特別の場合の特別の救済」を与えた。
コモン・ローを否定したり、変更することはない。
しかし、衡平(equity)・良心(conscience)・正義(justice)の観点から、当事者が持っているコモン・ロー上の権利を行使すべきでない、または、一定の条件の下に行使すべきである、という判決を下した。
→ 事件の数が増えるとともに、一定の事実関係があれば、大法官の救済を受けられるということが先例になっていく。
→ 大法官府(Chancery)の中に裁判所(大法官府裁判所 Court of Chancery)ができた。
👉エクイティー裁判所・・・1450年ごろの法廷の様子、コモン・ロー裁判所と比較してみましょう。
→ エクイティーという判例法が成立した。
第5回 コモン・ローとエクイティーの関係
1.コモン・ローとエクイティーの違い
もともとは、裁判所が違っていた。コモン・ロー裁判所(3つ)←→エクイティー裁判所(=大法官府裁判所)
エクイティーは、コモン・ローを補充・修正するもの。・・・エクイティーの法分野: 信託(Trust)、詐欺(fraud)・非良心性(unconsciounability)、譲渡担保(mortgage)、救済法(Law of Remedies)
エクイティー上の救済:①差止(Injunction)、②特定履行(specific performance)・・・履行の強制、③原状回復(recission)、④文書の訂正(rectification)
←→コモン・ロー上の救済:損害賠償だけ
裁判の方法
コモン・ロー:陪審裁判
←→ エクイティー:大法官による直接審理、当事者を大法官の面前に呼び出して、尋問する。証拠を出させる。
2.コモン・ローとエクイティの対立
エクイティー裁判所は、差止(injunction)の一種として、当事者がコモン・ロー裁判所に提訴することや、コモン・ロー裁判所での手続を続行すること、また、コモン・ロー裁判所の下した判決を執行することを禁止する差止命令(common injunction)を出すようになった。→当事者がこれに従わないと、裁判所侮辱罪(comtempt of court)として直ちに刑務所に収監されることになる。
コモン・ロー裁判所は、人身保護令状(writ of habeas corpus)を出して、その身柄拘束が違法であるとして、釈放を命じた。→刑務所の長がこれに従わないと、今度はコモン・ロー裁判所に対する裁判所侮辱罪となる。
ジェームズ1世は、1616年にエクイティーが優先するという裁定を出し、それが1873年最高法院法(Supreme Court of Judicature Act 1873)、1981年上級裁判所法(Senior Courts Act 1981)(現行の法律)に受け継がれている。
3.裁判所の統合
1873年最高法院法により、3つのコモン・ロー裁判所と1つのエクイティー裁判所を高等法院(High Court)にまとめ、控訴院(Court of Appeal)を新設した。
また、2005年憲法改革法(Constitutional Reform Act 2005)により、2009年に最高裁判所ができた。
https://www.judiciary.uk/wp-content/uploads/2020/08/courts-structure-0715.pdf
判例法の長所と短所
1.確実性 ←→ 硬直性
2.「同じような事件は同じように解決される」=公平 
3.正確さ  ←→  複雑さ、 論理的でない区別
4.柔軟性  ←→ 発展の遅さ 
5.「2.」=時間の節約
質問: 大陸法で悪い法律が制定されて、その法律を裁判所が解釈し、使用する恐れもある。判例法の場合は、例えば、裁判官が習慣や原理、社会的に容認された慣行などを違反して判決を下し、その判例を他の裁判官が使用するリスクがありますか?
イギリス: 先例の絶対的拘束性(1898~1966)
1. 1つの判決でも先例になる(判例法として、拘束力を持つ)。
2. 貴族院(House of Lords)の先例は、貴族院自身を拘束する。→先例の変更ができない。→議会制定法で変更するしかない。
先例があったときに、裁判官はどうするか?
a. 変更する
b. 従う
c. 区別する(distinguish)
法的拘束力のある「先例(ratio decidendi)」とは何か?
a. 結論を導くための、抽象的な理由づけ
b. 主要な事実+結論 (Goodhart教授の説)
先例 事実:a + b + c → 結論:〇
新しい事件:a + b + d → 〇
:       → ✖
事実が違うから、違う結論を出してよい。・・・区別(distinguish)
先例拘束性の下での法の発展
(1) Winterbottom v. Wright, 152 ER 402 (Ex. 1842)
https://sites.la.utexas.edu/judpro/files/2016/02/Winterbottom-v.pdf
(2) Thomas v. Winchester, 6 N.Y. 397 (1852)
https://www.casemine.com/judgement/us/5914ab84add7b04934735ce2
(3) MacPherson v. Buick Motor Co., 217 N.Y. 382, 111 N.E. 1050 (1916)
https://nycourts.gov/reporter/archives/macpherson_buick.htm
★ 質問とその答えは、以下にあります。
Minute Paperの質問 2022.02