ウィリアム1世の法
ウィリアム征服王の制定法
Henderson, Ernest F., Select Historical Documents of the Middle Ages (1896)
(中村による試訳)
1.第一に、そしてすべてに優先して、国王は、彼の王国において唯一の神が崇められ、単一のキリスト信仰が常に妨げられず、平和と安全がイングランド人とノルマン人との間に保たれることを欲する。
2.国王はまた、すべての自由人訳注:農奴や奴隷ではなく、ウィリアムから直接または間接に封土を受けている者をいう。が、誓約書と宣誓とにより、イングランドの内外を問わず、ウィリアム王に忠実であり、信義をもって王の土地と名誉を守り、第一に王を敵から守ることを誓約することを欲する。
3.朕はさらに、朕の連れてきた、または朕のあとに付いて来たすべての者たち訳注:ウィリアム配下のノルマン人をさす。が、朕の平和と静謐の中に存することを欲する。そのうちの1人が殺害された場合には、殺人犯の主は、5日以内にその者を捕らえなければならない。もし彼が(犯人をとらえることが)できるにもかかわらずそうしない場合には、自らの財産で支払える限り、46マークの銀を朕に対して支払うべきものとする。しかし、もし犯人の主の財産が尽きてしまった場合には、その殺人が行われた郡(hundred)全体が共同で、残額を支払うものとする。
4.そして朕の親族であるエドワード王の時代に、イングランドの慣習に従ってイングランドに土地を保有していたフランス人は、イングランドの法に従ってオンロート(onhlote)およびアンスコート(anscote)訳注:共同体に参加するための税および費用。と呼ばれる金銭を支払わなければならない。この命令はグロウセスター市によって確認された。
5.朕は、都市の内部以外で、生きた家畜を売買することを禁止する。そしてまたそれは信用のおける3人の証人の前でなされなければならない。また中古品を保証人および保証金なしに売買してはならない。しかし(禁止されているにもかかわらず)そうした場合には彼は代金を支払わなければならず、その後でさらに罰金を支払うものとする。
6.また、あるフランス人がイングランド人を偽証、謀殺、盗犯、(計画性のない)殺人、明白な強姦の罪で訴えた場合、イングランド人は熱鉄神判または決闘裁判のいずれか好きな方を選んで自らを防御することができる。しかしもしイングランド人の身体が健全でない場合には、代わりに決闘を行ってくれる者を探してよい。もしどちらかが負けた場合には、敗者は国王に40シリングの罰金を支払う。イングランド人がフランス人を訴え、彼の訴えを神判または決闘裁判によって証明しようとしない場合には、朕は、フランス人に非公式の宣誓によって自らの疑いを晴らさせるものとする。
7.土地に関して、およびすべての財産に関して、朕はエドワード王の法が維持され、また朕がイングランドの人民の便益のためにつけ加えた条文が守られることを命じ、かつ欲する。
8.自分が自由人であると考えるすべての者は保証人を持たなければならない。彼が何らかの法に違反した場合には、この保証人が彼の身柄を押さえ、裁きを受けさせるのである。そして彼が逃亡した場合には、彼の保証人は、問題なく彼に対する嫌疑について支払い、逃亡した不正について知っていたかどうかについて身の潔白を証明しなければならない。朕より前の国王たちがそう命じたように、郡および州(county)が返答しなければならない。当然来るべき者が出頭しない場合、1回目は召喚が命じられる。2回目に出頭しようとしない場合、雄牛を1頭没収し、3回目の召喚が命じられる。3回目も出頭しない場合、雄牛をもう1頭没収する。4回目も来ない場合には、来ようとしない者の財産から犯人に対する嫌疑の範囲で没収を行う。これは「シープゲルド(家畜支払い)(ceapgeld)」と呼ばれており、国王に対する罰金である。
9.朕は、国境を越えて人身売買を行うことを禁止し、違反した者には全額朕に対する罰金を科す。
10.朕は、何人も、いかなる落ち度によっても殺されたり縛り首にされたりすることを禁止するが、目玉をくり抜いたり睾丸を切り落とすことは認める。この命令に違反した者には全額朕に対する罰金を科す。
聖俗の裁判所を分離するウィリアム1世の布告
Id.
神の恩寵によりイングランドの王であるウィリアムは、R・ベイナード、G・デ・マグナヴィラ、P・デ・ヴァロイン、ならびに、エセックス、ハートフォードシャイア、およびミドルセックスの朕に忠実な者たちに挨拶を送る。そなたたち全て、およびイングランドに残った朕に忠実な者たちは以下のことを知れ。
通常の王会において、大司教、司教、修道院長、ならびに朕の王国の全ての領主の助言により、朕は、イングランドにおいて正しくないか、または聖書の教えに従っていない教会法が修正されるべきであることを決定した。そこで朕は、王権に基づく命令により、司教や助祭長は、郡の裁判所において、教会法に関する請求をもはやなしえず、魂の役割に関する事件について世俗の者の判決に服することもないと命ずる。
しかし、何らかの事件または落ち度により召喚された者は誰でも、神および神の司教の下で裁きを受けなければならないが、それは郡裁判所で行われるのではなく、教会法に従って行われるのである。しかし、誰かが、誇りにより、司教の裁判の席に着くことを潔しとせず、または着く意思のない場合には、1回2回3回と召喚がなされる。それでも彼が改悛するために出頭しない場合には、彼は破門される。そして、このことに実効性を持たせるのに必要である場合には、国王または州長官の力と正義が用いられることになる。司教の裁判の席に召喚された者は、召喚された回数分の教会法に基づく罰金を支払う。
また朕は、州長官、行政官、もしくは国王の代官または俗人が司教に関する法に関与してはならず、俗人が司教の裁判権とは別の判決のために他の者を召喚してはならない。判決は司教の席、またはこの目的のために司教が定めた場所以外からなされてはならない。