意匠法3条1項3号で類似範囲まで新規性なしとした理由
「意匠の新規性の判断は外形的な物品の形状、 模様等を比較して行うものであるから、全く同一の意匠に限らず類似のものまでも新規性がないとしたのである。」とあり、積極的な理由付けはない。
そこで、意匠法3条1項3号を設けた理由を考察してみたい。なお、意匠法23条で、類似範囲まで独占排他権を付与して保護するから、という理由付けをすることがあるが、それだけでは不十分である。類似範囲まで保護を広げた理由がないからである。 意匠は、その美的外観の視覚的効果に基づく購買促進機能・需要増大機能により産業の発達に寄与する。よって、法は、このような意匠の保護・利用を通じて意匠の創作を奨励している(意匠法1条)。
そして、意匠の創作を奨励するために、工業上利用できる意匠の創作をした者に(意匠法3条1項柱書)、独占排他権を付与して保護する(意匠法23条)。 このように意匠法は創作保護法であるから、保護にあたっては、「創作」の新規性を問う必要がある。
ところで、意匠の創作の保護にあたっては、特許法のように思想として特定して保護する(特許法36条5項)のではなく、物品と一体化した意匠として特定し保護する(意匠法6条)ことととしている。これは、意匠が、物品の外観であり視覚を通じて把握されるものであるため(意匠法2条1項)、思想として保護するより、創作の結果物たる物品の意匠を中心に保護する方が客観性を担保できるからである。 このため、新規性の判断についても、創作自体の新規性を直接問うのではなく、創作された結果の「意匠」の新しさを問うこととしている。しかし、意匠は、創作されたものであるから、一定の創作の幅を有する。そこで、新規性の判断にあっては、出願された意匠と同一の範囲のみの判断では不十分であり、創作の幅である類似の範囲まで新規性を判断することとしている。
換言すると、意匠法は、意匠の創作を直接の保護対象とせず、創作の結果たる意匠を直接の保護対象とし、間接的に意匠の創作を保護することとしたから、ということもできます。このような視点で、意匠法を眺めてみると、意匠法がよく分かるはずです。