「線の重なり」だけではトレースを推認することはできない
線の重なりだけではトレースを推認することはできないという判例 一般的な認識による線の重なりとは乖離があることに注意する
恣意的な検証による線の重なりである可能性を含むから
拡大・縮小・アスペクト比の変更
トレースを主張するには恣意性を廃する工夫が必要?あんも.icon
第三者機関に検証してもらうとか?
東京地裁令和5.10.13令和2(ワ)25439損害賠償等請求事件等
裁判に関係する人物や物事の変数名が1文字で表されることが多いので、とても読みにくいあんも.icon
事案の概要等
乙女ゲーム
Twitter
裁判に3年かかっている
トレース
既存の絵をなぞって写し取る手法により、新たな絵を作成することをいう
本件検証画像
被告が、原告による上記トレースの事実を検証するために作成した別紙検証画像目録記載の検証画像(以下、同目録記載1ないし205の検証画像を「本件旧検証画像」といい、同目録記載206ないし408の検証画像を「本件新検証画像」といい、これらを併せて「本件検証画像」という。)
本件実演会
本件実演会は、原告が、原告自身がそれまでに発表したキャラクターの中から被告が指定したものを、被告が指定した構図及び表情で描く方法により、行われた。
本件記事③: O
本件記事③には、
被告が、4年間にわたり被告イラストに「フリーライド行為」を行ってきた第三者を呼び出し、同人の弁護士と共に本件実演会を実施したこと、 本件実演会は、被告が同第三者に表情やポーズ等を指定し、同第三者がその指定に従ったイラストを描く方法により行われたこと、
被告は、被告の上記指定内容を記載した紙に、「謝罪するならば、公表はしないと約束できる」、「あくまでトレースを認めず、技量の証明をするのであれば、イラストレーターとして当然備えているべき最低限の技量があることをお示しください。」と記載し、これを同第三者に渡したこと、 同第三者が実演により描いた絵は、同第三者が「4年の間発表している絵とは全く別人の描く拙い絵」で、「これまで世間に発表されている絵を描いた者の技量とは言い難いもの」であったこと、
被告は、本件実演会終了後、同第三者に対し、被告が作成した、本件旧検証画像を含む「300点におよぶトレスコラージュの検証画像」を公開すると述べたこと、
本件実演会を機に、被告への「4年に及ぶ寄生」を止めさせることができたこと、 ただし、「トレス差分で作画するのを止め」たわけではなく、他のイラストレーターにターゲットを変えただけであったこと
などが記載されていた。
ここではまだ4年間にわたり被告イラストに「フリーライド行為」を行ってきた第三者が原告本人であることが認定されていないので、第三者表記になっている
読んだときにちょっと混乱してしまったあんも.icon
東京地裁の判断
1 争点1(名誉毀損の成否)について
⑴ 名誉毀損についての定義
名誉毀損とは、人の品行、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価を低下させる行為であるところ、ある表現内容が名誉毀損に該当するというためには、表現行為が公然とされ、表現内容が不特定又は多数人に認識されるか、認識可能な状態に置かれる必要があると解される。 この部分の細部は判例がいくつかあるようだが、よくわからないあんも.icon
⑵一般の読者の普通の注意と読み方
以上によれば、本件各投稿は、原告が被告イラストをトレースして原告イラストを作成したとの事実を摘示するものであると認められる。
投稿では氏名がイニシャルなどで表現され、ぼかされていた
⑶トレース行為の摘示がイラストレーターの社会的評価を低下させるものであるか?
一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本来、イラストを創作的に作成することを生業としているはずのイラストレーターである原告が、他人のイラストにフリーライドしてイラストを作成し、それを自身の作品として発表しているとの印象を与えるものであるから、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。 当たり前そうだけど、この一文は確認のために必要なのかなあんも.icon
匿名掲示板において、原告にはすでに他者のイラストをトレースして原告のイラストを作成しているという社会的評価が形成されていた、という被告の主張 被告の投稿が、原告の社会的評価をさらに低下させるものではなかった、という主張
本件全証拠によっても、本件各投稿に先立ち、これらの者の範囲を超えて、原告が他者のイラストをトレースして原告のイラストを作成していたという評価が社会一般において既に形成されていたとまでは認められないから、被告の上記主張は採用することができない。
一部の界隈でのみの評価が、社会一般における評価まで広まっていた、とまでは認められない
2 争点2(違法性阻却事由又は責任阻却事由の有無)及び争点7(不法行為の成否)について
⑴ 真実性の立証について
被告は、大要、
①原告イラストと被告イラストを重ねると、線の重なりが認められること、
②原告のイラストの絵柄は、原告がトレースを開始するようになった平成27年の春から夏頃にかけて急変していること、
③本件実演会において、原告は「人体崩壊」したイラストしか描くことができず、原告にイラストレーターとしての画力が乏しいこと
を根拠に、原告が被告イラストをトレースして原告イラストを作成したことは真実であると主張するから、以下、これらの点について検討する。
ア ①について
(ア) イラストの成立が認められる日付
原告のイラストは原告の申告した日までに成立したことが認められる
被告のイラストは納品日までに成立したことが認められる
これより前に同被告イラストが第三者に公開された事実はない
被告は、メールの送信日時や、原告イラストのタイムスタンプは容易に偽造することが可能であることを指摘した
が、単なる偽造の可能性を指摘するのみで、証拠の具体的な問題点については何ら指摘するものではなかった
原告のイラストは、被告の主張するトレース元のイラストが公開されるよりも先に成立していた
それにもかかわらず、本件旧検証画像において、被告の主張する線の重なりがあることが認められる
この事実は、原告イラストが被告イラストをトレースして作成されたものではなくとも、「線の重なり」が生じ得ることをうかがわせるものである。
トレースの有無の議論にかかわる部分
(イ)被告による線の重なりの主張とトレースの事実について
美術的な観点から検討すると、標準的な人の顔のイラストは、解剖学的な人間の骨格に基づいて描かれるため、目、鼻、口、髪の毛、輪郭といったパーツの配置や形はほぼ同じになること、人の顔らしく見えるようにするため、例えば、眼と耳は同じ高さに揃える、正中線を書いて真ん中に鼻を描くといったルールが決まっていること、パーツの顔の向きが同じであれば、その配置についての選択の幅は狭いことが認められる。 人間を描けば線が重なることはありうる?あんも.icon
Q氏の意見書には、本件新検証画像に打たれた緑色のドットと黄色のドットを滋賀県の外周の線と琵琶湖の外周の線に例えて、目視で滋賀県の外周と琵琶湖の外周を模写したとしても、細かいグリッド線を利用しない限り、滋賀県の外周と接していない琵琶湖の外周までの距離を一致させることは難しいため、多くの本件新検証画像において離れた2点で「線の重なり」が認められるということは、意図的なトレースを裏付けるものである旨が記載されている。 それにしても似すぎている?あんも.icon
さらに、被告は、原告イラスト又は(及び)被告イラストを拡大又は縮小、切り貼り、切り貼りした部分の反転、縦横比の変更等をした上で両イラストを重ね合わせ、「線の重なり」が認められる部分に黄色のドットと緑色のドットを打っていると認められること(乙41)からすると、このような検証方法にQ氏の意見書にある滋賀県の外周と琵琶湖の外周の位置関係の議論が当てはまるとはいい難い。したがって、Q氏の上記意見書を採用することは困難であるといわざるを得ず、他に被告が主張する①の点と原告によるトレースの事実とを結び付け得る的確な証拠はない。
検証の恣意性を排除できないあんも.icon
(ウ)
以上によれば、被告が主張する①「線の重なり」があることをもって、原告が被告イラストをトレースし、原告イラストを作成したと推認することはできない。
3 争点4(原告の損害の発生の有無及び損害額)について
⑴ 逸失利益
1体5万円で受注していた、ゲームのキャラクターの誕生日イラスト6体のキャンセル: 5×6=30万円
1体28万円で受注していた、スマホゲームのキャラクターデザインの2体のキャンセル: 28×2=56万円
⑵ 精神的損害
これらの事情に照らし、被告の不法行為により原告が被った精神的損害を200万円と算定するのが相当である。
これは慣例的な金額?あんも.icon
⑶ 弁護士費用
前記⑴及び⑵の損害額を考慮し、被告の不法行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用を28万円と認めるのが相当である。
実際にかかった費用とくらべてどうなんだろう?あんも.icon
4 争点5(本件各投稿削除及び謝罪広告の必要性の有無)について
⑴ 本件各投稿削除の必要性
本件各投稿は、投稿から3年以上が経過した現在も、誰でも閲覧できるウェブサイト上に掲載され続けており、本件各投稿による原告の名誉毀損の状態が継続しているといえるから、削除の必要性は高いといえる。
他方で、本件全証拠によっても、本件各投稿を削除することが被告に特段困難な作業を強いるものとは認められず、また、被告の表現の自由を必要以上に制約することになるとも認められない。よって、被告に対し、本件各投稿を削除するよう命じることが相当である。 投稿の補足がリプライに埋もれずにできている