アモルファス氷
水を冷やすと0℃で氷になるといいますが、実際には、結晶の核ができるまでに時間がかかるので、0℃を下回ってもすぐに氷になる訳ではありません。純粋な水を、ゆっくりと刺激を与えずに冷却すると、0℃よりもかなり低温まで過冷却できます。(水の特異な物性#29) それでも、実験で到達できる過冷却温度は-30℃ぐらいが限界で、その先はどうやっても結晶化がおこってしまいます。一方、計算機シミュレーションでは、不純物の影響を完全に排除できるので、結晶化を起こさせずにもっと過冷却することができます。 水をそこまで深く過冷却すると、その先には驚くべき現象が待っています。結晶化しないまま、固く凝った状態をガラス状態あるいはアモルファスと呼びますが、水には2種類のガラス状態があるらしいのです。
ある物質が、いくつかの結晶構造を持つことをpolymorphismと呼びますが、これは多くの物質に普遍的にみられる現象です。金属結晶は、温度をあげていくと、融解するまでに何度か結晶構造が変わるものがあります。
これに対し、複数のアモルファス状態をもつ物質はきわめてまれです。アモルファスというのは、そもそも秩序を持たないことが特徴なのに、秩序を持たない状態が複数あり、しかもそれらが明確に区別できる(不連続に転移する)というのは、ちょっと理解しにくいですが、どうも実験的にも、水に2つのアモルファス状態があり、その間で一次相転移が起こるこということが裏付けられつつあります。(複数のアモルファス状態があることをpolyamorphismと呼びます。)(文献1) 水分子が四面体型の水素結合ネットワーク構造を好むという性質が、水が二種類のアモルファス構造を持つ原因であると思われますが、両者を結ぶ理論はまだ発展途上です。(→LDA(低密度アモルファス氷)参照) 参考文献
1. 鈴木、日本物理学会誌 61, 318-324 (2006).