水の特異な物性
(このページは、2003年名大祭の展示のために、下記文献1を邦訳要約加筆したものです。その後このリストはさらに長くなっています。)→水の異常な物性に更新しました。 https://www.youtube.com/watch?v=5cv_hNYPfwk
水の特異性
水には、他の物質にはほとんど見られない、様々な変わった性質があります。これらの性質のなかには現在でもはっきり説明がつかないものも残されています。
1. 融点が高い
2. 沸点が高い
大気を構成する分子のなかで、常温で液体になる唯一の物質=分子量が小さいのに、分子間相互作用が強い。
3. 臨界点温度が高い
4. 表面張力が大きい
土壌の保水能力が高い
高い樹木でも水を吸い上げることが可能になる
5. 粘度が大きい
6. 気化熱が大きい
蒸発する時にたくさん熱を奪う
汗をかくことで体温調節
9. 融ける時に第一隣接分子の数が増加する。
10. 温度が上がるにつれて第一隣接分子の数が増加する。
11. 圧力を加えると融点が下がる
12. 圧力を加えると密度最大の温度が低くなる。
13. 重水、三重水の物性は軽水と著しく異なる。
14. 温度を下げると著しく粘度が増加する
15. (30℃以下で)圧力を加えると粘度が下がる
1000気圧で粘度が最小になり、それ以上加圧すると粘度が再び増加する
16. 圧縮率が小さい(空隙が多いにもかかわらず!)
17. 温度を上げると圧縮率が下がる(46.5℃以下で)
18. 膨張率が小さい
4℃で膨張率が0になるため、その付近の温度では膨張率も一般の物質に比べて極めて小さくなります。仮に、エタノールと同じ体膨張率(0.1%/K)であったとすると、海の平均深さは3800 mもありますから、水温が1℃上昇するだけで、海面が1 m上昇することになります。地球温暖化が進んでいるにもかかわらず、海がそんなに膨張しないのは、深海部の海水温の平均値がまだ4℃に近いからで、この先平均水温が高くなると、加速的に膨張が進行すると思われます。
このような物質はほかに存在しない。水で、アルコール温度計のような温度計を作ると、4度に近付くにしたがって目盛の間隔が小さくなり、4度以下では温度を下げるほど体積が増えはじめるので、目盛が重なってしまう!
氷は温度を下げると収縮するが、-210℃以下で再び膨張に転じる YMT2016a 20. 温度を上げると音速が速くなる(73℃まで)
21. 比熱が大きい
天ぷら油は水よりはるかに速く暖まる
気候を穏やかにする
22. 水は水蒸気や氷に比べて比熱が倍以上
実際、ポテンシャルエネルギーの揺らぎ幅は、氷、水蒸気は小さく、水が大きい。
氷、水蒸気では水素結合がつながりっぱなし、切れっぱなしなためだろう。
23. 比熱が36℃で極大をもつ
24. NMR スピン格子緩和時間が低温で非常に小さい
25. 溶質分子は密度や粘度などの物性にさまざまな影響を与える
26. 水溶液は理想溶液でない
27. X線回折パターンの異常
28. 過冷却水には2つの相と第二臨界点がある
水は過冷却領域(氷点以下)で、2種類の液体状態(水Iと水II)になる。水IIは水Iに比べ、密度が低く、粘性が非常に大きい。
29. 水は容易に過冷却できるがガラス化しにくい。
少なくとも10種類の安定相(Ih, II, III, V, VI, VII, VIII, IX, X, XI)と準安定相(Ic, IV, XII)がある。準安定相はほかにも見付かる可能性が高い。HMT2014 MHM2014 MHYMT2017 HYMT2017 YMT2018 クラスレートハイドレート(氷包摂化合物)の構造も何種類もある。 MT2011 31. お湯は冷水よりも速く凍る(Mpemba効果)
諸説ある
おそらく、熱水中の微小な気泡が種になって、氷が生まれやすいのでは?
硬水を沸騰させると、やかんの中に沈殿が析出し、残った湯は軟水になる。硬水をそのまま冷却すると、無機塩の濃縮がおこり、なかなか凍らないが、軟水はすぐ凍るから(New Scientists) 32. 水の屈折率は0℃直上で極大
33. 非極性気体の溶解度は、温度を上げるにつれ減少し、ついで増加に転じる
34. 低温では、水の自己拡散は密度・圧力を上げると増加する。
35. 水の熱伝導率は130℃で最大になる
36. 電場中でのH+/OH-イオンの移動度は異常に速い
37. 融解熱は-17℃で極大
38. 誘電率が大きい
水道の水に下敷きを近付けると曲げることができる(?)
39. 高圧下では、圧力を加えるほど水分子はより拡散する。
40. 電気伝導性は230℃で極大になり、より高温では減少する。
41. 暖かい水は冷たい水よりも長く振動する。
ほかに
水は何でもよく解かす。
塩のようなイオン性の物質も、有機物も(量の大小はあれど)溶ける←→有機溶媒には電解質は全く溶けない。
みそ汁が作れる。
「第3に,水が多くの物質を溶かす能力を具えているとこである。水ほど多くの物質を溶かすことの出来る液体(溶媒)は他になく,とくに無機化合物をイオンに分解して溶かす力は抜群である。水はまた結晶水や水酸基の形で他の結晶や鉱物と結合することもできる。これはかなり安定であって,結晶水は200℃位,水酸基になったものは600℃位に加熱しないと分解しない。 」((文献3))
これ以外にも、水特有とはいえないものの、不思議な性質はいろいろあるようだ。(白く凍った氷は、透き通った氷よりも速く融ける、など)
水の特異性の源
水素結合により、分子が互いに強く結びついていること
1, 2, 3, 4, 6, 21, 22, 25, 26
水素結合ネットワークが、正四面体型局所配置を好み、秩序化するほど空隙が大きくなること
5, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 14, 15, 17, 18, 19, 20, 23, 24, 28, 30, 32, 34, 39, 41
(上項に起因して)第二臨界点の影響によると思われる、低温での発散的挙動
8, 12, 14, 15, 16, 17, 18, 19, 20, 21, 22, 23, 28, 29, 32, 33, 34, 37
水素原子が軽く、解離しやすいこと
13, 36
その他の理由によるもの、複合的な理由によるもの、原因未解明なもの
31
未分類
27, 35, 38, 40
水と生命について
いろんな文献で「水は特異な性質をもっているから、生物は生きていけるのだ。よかったよかった」という文脈をみかけますが、その解釈には私自身は懐疑的です。私自身の解釈は「生命と水」をお読み下さい。 水素結合と分子の極性について
「水分子は極性が大きいので、水素結合が強い」という説明はたぶん誤りです。ここで、極性というのは、分子全体をひとつの双極子とみたてたときに、大きな永久分極を持つことを意味しています。確かに水の極性は強いのですが、水素結合の源になっているのはこのような分子全体を平均化してとらえた双極子の間の相互作用ではありません。水素結合の源になっているのは、分子内で、電荷が局在していることです。
わかりやすい例として、二酸化炭素分子を考えてみて下さい。二酸化炭素分子では、炭素と酸素の電気陰性度の違いのために、酸素に電荷がひきよせられ、酸素が負の、炭素が正の電荷を集め、電荷の局在がおこっています。そのため、となりあう2つの分子の、炭素と炭素の相互作用よりも、酸素と炭素の引力はかなり強くなっています。この、電荷の偏りがもっと極端であれば、水素結合と同じぐらいの相互作用となり、水と同じようなネットワークを形成することでしょう。
それにもかかわらず、二酸化炭素分子は極性をもちません。それは分子が対称で、全体としてみれば正電荷と負電荷の重心が一致するためです。極性の大きさと、最近接分子間相互作用の強さが比例するのは2原子分子までで、3原子以上になるといろんな幾何学的な原子配置がありうるので、冒頭のようなステートメントは正しくなくなるのです。
水分子のクラスタについて
「液体の水の中に、クラスタが存在する」、という話を非常によく聞きます。クラスタというのは、葡萄の房のことで、ここでは水数分子~数十分子の一団のことを指します。
クラスタというのはたんに一団という意味ですから、「液体の水の中に、分子の一団が存在する」という言説自体は、正しいとも誤っているとも言えません。研究者なら必ず(その一団をほかと区別する方法を)定義してからクラスタという言葉を使っているはずです。逆に言えば、それをはぐらかしているような言説はたいてい他人を欺こうとしていると思っていいでしょう。
また、定義がはっきりしている場合でも、実際にはありえない定義の場合もあるので注意が必要です。例えば、液体の水の中で、一団(数分子~数十分子)の水分子が、ほかの水分子とは隔離されて一団の房を形成している、という説があるとします。このような説は、液体の水の構造を分子レベルでシミュレーションしたり実験で観察したりできなかった古い昔には一つの仮説として受けいれられていました。しかし、現在では、現実にはそのような状態は非常にまれにしか起こらないし、シミュレーションにおいてもまず観察されない架空の状態だと考えられています。(例えばカウズマン「水の構造と物性」、P.269、みすず書房)
水素水について
参考文献
永山國昭、水と生命、共立出版
関連情報
物凄く素朴に、水で火が消える理由が分かりました。素朴すぎてすみません・・・(^^; - 葛西 {{datetime 1129821879,bbstime}}
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(2005年9月)
(2018年10月加筆)