ハイパーオブジェクト
哲学者ティモシー・モートンは地球温暖化を「ハイパーオブジェクト」と呼んでいる。私たちを取り囲み、包み込み、巻き込んでいるが、文字通り大きすぎて全体が見えないものだ。ハイパーオブジェクトはたいてい、他のものへの影響を通して知覚される。――溶けていく氷床、瀕死の海、乱気流にもれる大西洋横断便。ハイパーオブジェクトは私たちに直接影響を与えるので、個人的なものとして知覚してもよいが、科学理論の産物だと想像しても良い。事実、ハイパーオブジェクトは私たちの近くや測定の外に立っている。私たちがいなくても存在する。あまりに身近ながらとても見えにくいので、私たちが合理的に記述する能力や、伝統的な意味で取得したり克服したりする能力に反している。気候変動はハイパーオブジェクトだが、それだけでなく各放射能も、進化も、インターネットもそうだ。 ハイパーオブジェクトの主な特徴の一つに、こんな事がある。ほかのものに付された痕跡によってのみ知覚されるので、ハイパーオブジェクトをモデル化するためには、膨大な計算を必要とする。それはネットワークレベルでのみ認識が可能で、時間だけでなく、莫大な分散センサーシステム、エクサバイト級の空間出来なデータと計算を通じてのみ知覚される。こうして科学的記録の管理は超感覚的知覚(ESP)の一形態となる。ネットワーク化され、共有化され、時間旅行をする知の生産だ。この特徴はまさしく、ある種の思考にとっては、タブー視されているようなものだ。無形で無感覚のものに触れられ感じられると主張しておきながら、そのあとで思考不能のものとして捨てるようなことだ。気候変動の存在についての議論は、じつのところ、私たちが何を考えられるかについての議論である。