宇宙儀
読み:うちゅうぎ
ここでは、3次元位相多様体の視覚化のために、根上生也が著書で用いた語をさす。
多様体論のアトラス(地図帳, atlas)とかチャート(海図, chart)の概念に近い。のりしろの有無などの慣習が異なるが。
「宇宙儀」という名前なのは、かのポアンカレ予想を宇宙旅行に比喩する手法にのっとっているからだ。
地球は球体で、その表面に住んでいる我々は、概ね球面を這って生きているとみなそう。(地下や空中への移動、立体交差の存在などをもちろん無視している。)
球体$ B_3の表面、すなわち球面$ S_2は、(縮小して地球儀と呼べるサイズにした上で、)ハサミでいくつかに切り分けてそれぞれの「丸み」を平らにならせば、何枚かの平面図形になる。これを地図として用いる。地図を全て集めた地図帳は、世界のどの地点でも表せる。
なお、ドーナツ型の星なんかに住んでいたとしても、この手法で星の表面の地図および地図帳は作れる。
この話を1次元上げて考えることができる。
宇宙空間を飛び回っている航行人種があった。彼らは宇宙地図を作る。
4次元球体$ B_4の表面、すなわち超球面$ S_3は、(縮小して手頃なサイズにした上で、)ハサミでいくつかに切り分けてそれぞれの「丸み」を平らにならせば、何個かの立体図形になる。(それぞれの立体図形をなにか半透明な材質で作って、図形の中身がよく見えるようにしておく。)これを立体地図として用いる。立体地図を全て集めてずらりと並べたものは、宇宙のどの地点でも表せる。
この一揃えの立体地図を根上は「宇宙儀」と名づけた。
宇宙が超球面でなくても、3次元位相多様体でさえあれば、この手法で我々の3次元世界の中に収まる宇宙の地図が作れる……んだっけ?
★もっと端的に
地球の表面は球面だといえるけど、それは北半球と南半球に分けて、2個の円形の地図で表せるね。
同様に、超球面を2等分してならすと、2個の球体ができるんだ。
余談
「儀」ってつけるタイミングに差があるな。
ポアンカレ予想を宇宙旅行に比喩するのは、比喩にすぎない。
現実の宇宙が超球面$ S_3だと思っている人って異端じゃないか? たいていの人はただの球体$ B_3だと思っているぞ。
宇宙が超球面だとして、それは何か宇宙でないものを囲んでるのか? 宇宙が高次元まんじゅうの皮の形なら、高次元のあんこにあたるものは想定されるのかって話にもなるだろ。
Heegaard 分解って、このことなのだろうか。 未読。
文献
根上生也:『トポロジカル宇宙 完全版 ポアンカレ予想解決への道』, 日本評論社(2007), 59-91ページ
宇宙儀の完成図は89ページ。
立体地図の個数は(トポロジカルには)いつでも2つで足りるとのこと。向き付け可能なものに限った話?
1993年発行の旧版があるらしい。